【特別企画】自殺願望を〈傾聴〉する僧侶の精神対話と哲学

東京の住宅街にある小さな寺の門前に貼られた「あなたのお話 お聴きします」という紙。過去20年、この寺を訪れた相談者は数多く、「お話」は主に自殺に関するものだった。住職はいかにして「死にたい」苦しみと向き合ってきたのか。そもそも、僧侶がそうした活動をする理由とは――。米LA在住のジャーナリスト・柳田由紀子氏が実態を探った。

自坊の本堂で勤行する前田宥全住職。生きづらさを感じる人々の話を〈傾聴〉し続けている。(写真/西村 満)
前田住職への相談は予約が早めに埋まってしまうため、緊急を要する方は厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」(電話:0570-064-556)や、そのほか民間団体主催の相談窓口へお問い合わせください。僧侶による組織としては、「自死・自殺に向き合う僧侶の会」やNPO法人「自殺防止ネットワーク風」もホームページを設けており、相談することができます。

俗に「坊主丸儲け」という。けれども、東京・港区、正山寺(しょうさんじ)の前田宥全(ゆうせん)住職(51歳)は、そこから遠い地平にいるお坊さんだ。丸儲けできる立場の人が、どういうわけで金にもならぬ活動を続けているのか? それを訊きたくて、本人を前に恐縮しつつ「坊主丸儲け」という言葉を使うと、前田住職は驚くほど穏やかにこう応えた。

「ああ、僧侶って、まだそういうイメージですか。率直に言ってくださってありがたいことです。助かります」

その口調があまりにも穏やかだったために、かえって凄みを感じたほどだ。

前田住職は、毎朝午前5時半に起床する。1日の始まりは坐禅から。その後、勤行 や 境内掃除、事務をすると10時半、1人目の相談者が訪れる。11時50分に相談者が去り、昼食を挟んで草取りや事務・法事をして午後2時、2人目の相談者を迎える。3時20分に2人目が去った後は、3人目の相談者と4時から、あるいは、相手が仕事帰りの場合は6時から対面する。

相談者は1日3名までと決めているが、ほかに手紙にも応じているので、住職の毎日は面談と返信を中心に過ぎていく。

「今日は電話が2本、メールが4通。相談の問い合わせは毎日平均それくらいです」と、住職は言う。では、連絡する人々は彼に何を求めているのか? それは、「話を聴いてほしい」ということ――。

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2024.11.22 UP DATE

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