“貧困とはなにか”を問いただすドキュメンタリー傑作選

――SDGsはあらゆる貧困を終わらせると目標を掲げているが、その実現は相当困難に思える。そこで当企画ではアジア諸国の貧困、格差を扱ったドキュメンタリーに注目し、貧困の本質を問い直してみたい。その問題の解答を導く教材として、映像の力は極めて有効なはずだ――。

「貧困をなくそう──あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」

『スモッグ・タウン』より。アジアンドキュメンタリーズにて配信中。

これは、2015年9月の国連総会で定められた、2030年までに達成を目指すSDGsの第1に掲げられている目標である。

この目標設定に対し、読者はどんな感想を持つだろうか。30年といえば、あと8年。たった8年で、あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせるとは、ずいぶん大胆な目標設定を掲げたものだと感じてしまうのは、筆者だけではあるまい。

この第1の目標は、さらに細かく分かれていて、その最初には、「2030年までに、現在1日1・25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる」と記されている。この“1日1.25ドル未満で生活している人々”は、現在世界で8億人以上いるというデータもある。

いくら日本が、「失われた30年」という長い低成長に喘いでいるとはいえ、憲法上は健康で文化的な最低限度の生活が、一応保障されている。1日1・25ドル以下という絶対的貧困はさすがに遠い世界で、その中で生きるというのはどういうことなのか、つぶさに知ることは容易ではない。

それをリアリティを持って知るには、文章よりも映像の力を借りるのが有効かもしれない。今は世界のさまざまな場所で、優れたドキュメンタリー映画が撮影、制作されているが、それらを配信で見ることのできるサービスのひとつが、「アジアンドキュメンタリーズ」だ。

「私はもともとテレビのドキュメンタリーなどを制作する立場でしたが、世界にはさまざまな優れたドキュメンタリーがあるにも関わらず、日本ではまだそれらの作品を見られる機会が限られている。そんな現状を変えたいと思い、18年にサービスを立ち上げました。欧米が舞台のドキュメンタリーは、ネットフリックスなどで比較的簡単に日本でも視聴可能なのに対し、我々はアジア人であるのにもかかわらずアジアが舞台の作品はまだまだ埋もれている。そこで、『アジアンドキュメンタリーズ』とサービスを命名しました」

アジアンドキュメンタリーズの責任者である伴野智氏はこう話す。

現在、200本以上の配信作品が扱う国は、アジアといっても中国やフィリピンから北朝鮮、インド、シリア、アフガニスタンなど幅広い。

そんなアジアンドキュメンタリーズの配信作品の中には、ギリギリの貧困生活を送らざるを得ない人々の日常をまざまざと映し出したものも多い。たとえば、『鉄の男たち チッタゴン船の墓場』という作品では、バングラデシュ南東部の港湾都市チッタゴンで、世界中から集まる引退した船の解体に従事する男たちの日常が描かれる。命懸けの重労働に1日わずか5ドル以下の稼ぎで従事する彼らの姿からは、一生抜け出せない貧困がどういうものかを突きつけられる。登場人物のひとりはお金を貯めて人力車夫になるのが夢だが、人力車を買うお金を貯めることができないでいる。

『パキスタンに見棄てられて』では、パキスタン南部の都市カラチで50万人以上も存在するとされるヘロイン依存症者たちの姿をとらえる。1日10ユーロしか稼げない路上生活者でも、わずか1・5ユーロで買えるヘロインには手が届くという現実に、世界の不条理を感じざるを得ない。

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