――社会に広がったLGBTQという言葉。ただし、今も昔もスポーツ全般には“マッチョ”なイメージがつきまとい、その世界においてしばしば“男らしさ”が美徳とされてきた。では、“当事者”のアスリートたちは自らのセクシュアリティとどのように向き合っているのか――。
(写真/佐藤将希)
コロナ禍での開催に、何かと競技以外の話題が取り沙汰された東京オリンピック。その陰で、五輪史上初の事態が発生していた。ウエイトリフティング女子87キロ超級に、MtFのトランスジェンダー選手が出場したのだ。
トランスジェンダーとは性別違和を持つ人々の総称。出生時の体の性別が男性で、性自認が女性のトランスジェンダーをMtF(Male to Female)、逆の場合をFtM(Female to Male)という。
その選手には新時代の到来として温かい拍手が送られたが、一方で生物学的に有利であり不公平という声も出た。SDGsが叫ばれる時代、今後はスポーツ界にとってトランスジェンダー選手の存在は、避けては通れない議題となるだろう。
「そうですね……射撃のような競技なら、あまり問題にならないかもしれないですけどね……」と語る松本智広(仮名)はFtMの元女子野球選手。引退後、ホルモン治療、子宮・卵巣の摘出といった性別適合手術を経て、戸籍を変更。心も体も男性としての人生を歩んでいる。
一般的に、男性は第二次性徴期を過ごせば、骨密度や筋肉量は女性を上回るようになる。しかし、FtMのアスリートは男性ホルモンを注射しても、いきなりフィジカルがシスジェンダー(出生時の体の性別と性自認が一致する人々)の男性アスリートと同じレベルになるわけではない。治療後に男性アスリートとして活動する場合、一般人のレクリエーションスポーツならまだしも、競技スポーツでトップを争うのはかなり困難なのだ。少なくとも現在は。
「理想をいえば、男子、女子のほかにトランスジェンダー部門、あるいは男女混合部門があればいいのかもしれませんが、現状、大会としてはなかなか成立しないでしょう。それだけの選手数が集まるとは思えませんから」
その現実を、智広は身をもって痛感している。自らも「野球をとるか、体も戸籍も性別を変えることをとるか」という選択を迫られ、後者を選んだ元アスリートだからだ。