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――タニタといえば、健康志向の「タニタ食堂」を展開したり、健康経営を支援する「タニタ健康プログラム」を提供するなど、独自の経営戦略で高い評価を集めている。でも、社員に対して雇用契約じゃなくて、個人事業主になる選択肢を示したのには世の中もビックリ。普通の人には、そういう働き方があることは理解できても、「正社員」じゃなくなることへの不安が先立つもの。いったいぜんたい、タニタの中ではどんなふうにして始まって、いまどうなっているのか、仕掛け人に聞いてみた。
[今月のゲスト]
二瓶琢史(ニヘイ タクシ)
株式会社タニタ 経営本部 社長補佐、合同会社あすある 代表社員。自動車メーカーを経て、2003年に知財・法務担当としてタニタに入社し、その後、人事課長、総務部長を歴任。16年から社員の個人事業主化に取り組み、17年には自らも個人事業主となる。現在は個人会社を設立し、タニタ以外の企業にも支援を行っている。
●働き手の実態について
調査結果 ○ 働き手の職種
各グループ(「A.雇用関係なし」「B.雇用関係あり×雇用関係なし」「C.雇用関係あり×雇用関係あり」)ごとの職種は以下のとおり。
A層はクリエイティブ専門職専門職が圧倒的に多い。他方、雇用関係ありであるB層やC層は経営、ビジネススキル系の能力を用いた職種の傾向がある。
A層:個人事業主やインディペンデント・ コントラクターなど雇用関係にない働き方。なお、士業/自営業/ 自営業主(飲食店・卸小売店・農業等)については、それのみで就業している働き方は対象外。例えば、弁護士で、弁護士業のみをしている層は除外しているが、 弁護士業を行う傍ら、法資格に関する講師業などを副業的に行っている層は対象。
B層:「雇用関係あり×雇用関係なし」は、雇用関係はありながらも雇用関係のない働き方。たとえば一社で雇用関係をもって就業し、同時に空いている時間でプロジェクトを引き受ける契約をして働かれているといった働き方をしている層である。
C層:「雇用関係あり×雇用関係あり」は雇用関係を複数の会社と結んで働いている層を対象としている。
(出典)総務省 平成29年3月「雇用関係によらない働き方」に関する研究会報告書」より
クロサカ 体脂肪計でおなじみのタニタが、2017年より希望する社員を雇用契約から個人事業主としての業務委託契約に切り替えるプロジェクトを実施し、大きな反響を呼びました。今回は、その仕掛け人であり、自らも率先して個人事業主となった二瓶琢史さんをお招きしました。そもそものきっかけから教えていただけますか。
二瓶 私は03年に知財・法務担当としてタニタに途中入社しました。10年から人事課長になり、いくつかの人事制度作りに取り組んできました。その頃から社長の谷田(千里氏)には、「会社にすごく貢献している人に対して、公平性を前提にした人事制度から、どうやって飛び抜けた評価をしたらいいのか」という思いがあったそうです。そこに風穴を開けるために「社員ではなく個人事業主として仕事をしてもらうという関係性作りをどうしてもやりたい」という宿題を谷田から預かったのが、私がこのプロジェクトに取り組むことになった入り口になります。
クロサカ 「公平性を飛び抜けた評価」って強烈な言葉ですね。でも確かに、結果の公平は求めていいですが、機会の公平を求めると何もできなくなることがあります。例えば、新型コロナワクチンも、全ての対象者に同時に接種できない以上、何らかのプライオリティをつけて時間差が生じても、最終的には社会にも個人にとっても良いとして進めたわけじゃないですか。
二瓶 谷田は社長に就任した08年から、人的リソースに対する思いがいろいろありました。ひとつは、働き手と会社との関係性です。ポテンシャルの高い人が経済的に会社に依存しない状態であれば、もし会社の業績が不振で充分な給与を出せないような事態になったとしても、共倒れを恐れて会社を去るといったことはせず、他から収入を得ながらタニタの仕事も続けて、支えてくれるんじゃないかと。もうひとつは健康面です。タニタは「健康をはかる」「健康をつくる」をうたっているけれど、社員の中にはメンタル不調を抱えるものも出ている。そういう社員は、仕事を「やらされている」と感じていて、かつ仕事量が多いようにも見えます。ならば、仕事量の調整ではなく、やらされている仕事から「自分の仕事」としてオーナーシップを持ってもらうアプローチがあり得るんじゃないか。そして、ある税理士法人と知り合ったことが引き金になって、プロジェクトがスタートしました。