ピラミッドは天皇の神殿だった――現代にはびこり続ける偽史と偽書

――すでに公にも学問的にも否定されているはずの、史実ではない偽りの「偽史」が著された「偽書」の言説がいまだにはびこっている。なぜ、捏造された歴史は繰り返し語られてしまうのだろうか? 陰謀論に利用される偽書や、オカルト的な偽史の危険性について考えていきたい。

(絵/かつまたひでゆき)

日本人は失われた十支族!
【1】日ユ同祖論
籠目紋と六芒星、ヤマト言葉とヘブライ語の類似性などから「日本人とユダヤ人は本来同じ民族だった」という伝説。日ユ同祖論は聖書に詳しい者でも支持することがあり、キリスト教思想家の内村鑑三は「天照大神は中東の神ミトラである」と主張し、牧師の川守田英二も「日本の囃子言葉とヘブル詩歌の共通性」を説く著書を残している。


(絵/かつまたひでゆき)

「ムー」ではおなじみのオカルト言説
【2】竹内文書
1928年、天津教という新宗教の教主である竹内巨麿が公表した「宇宙の始まりから天皇家は存在していた」「超古代の歴代天皇は天の浮船に乗って、世界中を統治していた」「ピラミッドは天皇の神殿である」などと主張する壮大なスケールの偽史。公開後は酒井勝軍など国家主義者たちから支持されたが、結局竹内は不敬罪で逮捕されてしまう。


(絵/かつまたひでゆき)

大津波で流された東北の王朝
【3】東日流外三郡誌
青森県五所川原市に在住していた、和田喜八郎の邸宅の屋根裏から急に出てきた文書群。東北地方に大和政権と対抗しうる、別王朝があったという。アラハバキという遮光器土偶の姿の神を信仰し、王朝の末裔は大津波で壊滅したという歴史は、75年に『みちのくあけぼの――市浦村史資料編東日流外三郡誌』として公に認められたが、のちにその内容をめぐって論争が相次ぎ、偽書扱いされるようになった。


(絵/かつまたひでゆき)

郷土史が偽書でてんやわんや
【4】椿井文書
江戸時代に椿井政隆が、依頼者の求めに応じて制作した偽書の総称。京都府の山城をはじめ、近江、河内、大和などで、自身の家柄を良いように歴史に残してもらいたいという者たちに正当性を与えるため、中世の年号などが使われた。これらは京都府山城地域の郷土史に、数多く引用されてきた史料のため、現在、再検証を迫られている。


(絵/かつまたひでゆき)

江戸っ子を皆殺しにしたから史料がない!?
【5】江戸しぐさ
江戸時代にあったとされる道徳作法。史料上の根拠がないのに教育現場で教えられ、ACによって地上波のCMが作られた。相手とすれ違うとき、反対側に傘を傾けて、雨などのしずくが相手にかからないようにする「傘しぐさ」など思いやりの心を持って仲良く、平和に生きるための教訓だったが、全部ウソだった。



新型コロナウイルスの蔓延によって「コロナは生物兵器として人工的に作られた」「ビル・ゲイツが5Gを受信できるマイクロチップ入りのワクチンを打とうとしている」といった陰謀論が出回っている。こうした荒唐無稽な陰謀論では、必ずといっていいほど何かしらの形で「ユダヤが黒幕である」といった流れができる。そして、その大元をたどると「ユダヤ人が世界征服を企んでいる『証拠』」が書かれた『シオン賢者の議定書』に行き着く。100年前にロシア帝国の秘密警察によって捏造された偽書である。

なぜ、偽りの歴史が書かれた文献の言説が、いまだに陰謀論として繰り返し語られてしまうのだろうか? そして、偽史や偽書の中には明後日の方向のオカルト的な内容であったり、むしろ道徳を説くようなものもあるが、それらがはらむ危険性とは一体何なのか? 『捏造の日本史』(KAWADE夢文庫)や『偽書が揺るがせた日本史』(山川出版社)など、偽書や捏造に関する著作を持つ歴史研究家・原田実氏の話をもとに探っていきたい。

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