同業者が集まる飲み会の“いじり”に耐えながら
(写真/佐藤将希)
「好きなタイプは華奢でかわいいコ。わかりやすく言えばジャニーズ系。山田涼介君みたいな感じ、好きですね」
ゲイを自覚するきっかけとなった“トキメキ”のポイントは今も変わらない。現在のパートナーも、そんな細身の男性。夢を追いかける、楽しくも厳しい道のりを支えてくれる存在だ。
「ゲイっていうと“ガチムチ”好きのイメージが強烈だからか、性格の悪い人は練習の着替え中なんかに僕と目が合うと『こっち見んなよ!』とか言ってくるんです。みんなプロレスラーでガタイいいですからね。でも、僕からしたら『こっちにも好みがあんだよ! お前なんか見てねぇよ!』って感じ」
言葉通り、大策はゲイであることを所属団体には告げている。そもそものきっかけがゲイのスタッフの誘いという影響もあったのだろう。
「ゲイもそうだし、LGBTQに理解のあるいい団体です」
ただ、家族に偏見の目が集まることを恐れて公表はNG。家族にもカミングアウトはしていない。
「団体は理解があっても、個人となると、偏見でからかってくる人はいます。自分はいいけど、家族がそんなふうな目で見られたり揶揄されたりするのは悪いから」
ゲイを自覚して以降、それまで当然だったことが、人によっては嫌な感情を抱くこともあるということを、身をもって知った。
「さっきの話もそうですけど、いじる人はやっぱりいじるんですよ。ちょっとならこっちも冗談として流せるんですけど、いじられすぎるとイラッとする」
例えば、屈強なフィジカルの持ち主である同業者が集まる飲み会で「で、この中で誰がタイプなの?」と振られる。
「『全員タイプじゃないです』と真面目に答えると、『フラれた気分だわー』とか言われる。ノンケの話としても、よくあることに聞こえるかもしれないんですけど、明らかにそれとは違う、からかいのニュアンスが入っていて……。面倒だから適当に『この人がタイプです』とか言うと、『じゃあ、キスしろよ』なんて流れになったり。嫌だから飲み会もあまり行かなくなりました」
相手は軽い冗談のつもりだったのかもしれない。“いじめ”ではなく“いじり”だ、と。それこそ体育会の中の、先輩後輩の、よくある話として。大策はそれを深く理解している。彼も大学までは、そんな世界にどっぷり浸かって生きてきたから。
「こうした悪い体育会ノリに安易に乗っかるのはよくないことなんだ、とやられて初めてわかりました」
今でも大策がゲイであることがわかった上で、「キャバ行こうぜ」と誘ってくる人間もいる。
「ホント面倒くさい。でも、今は断ろうと思えば断れますから。大人でよかったな、と思います。高校や大学の体育会で、先輩の言うことは断れない、みたいな空気だったら、もっと苦痛だったでしょう」
ただ、自らが進む道は男子プロレスの世界。格闘技ということもあり、“魅せ方”において、まだまだマッチョイズムが幅を利かせている。そこで自らの性とのギャップに苦しむことはないのだろうか。
「まぁ、アメフトのときも思い切ってタックルにいけないと、『お前、女かよ!』とか言われましたもんね。でも、僕は闘争心と性は別、男らしいみたいなものとは別だと思っているんで。切り替えじゃないけど、試合になれば自然に『これは戦いだ!』とスイッチが入り、自分にハッパをかけられるし、魅せるところはきちんと魅せることができる。分けてやっている感じですよ」
言われてみれば当たり前だ。格闘技の競技者にも当たり前のように女性がいて、激しい戦いが繰り広げられている。男だから、女だから、という背景と、闘争心は別だ。
「ゲイというと、テレビに出ているタレントさんや二丁目のイメージが強いのか、すぐ『女っぽい』とか『オネエ言葉を使う』とか思われがちだけど、いろんな人がいますから。テレビや二丁目はエンターテインメントですよ。自分としてはあくまでフラットに触れてほしい。フラットに人付き合いできるほうがいろいろラクだから」
だから、いくら“物語”“キャラクター”が大事なプロレスであっても、自身がエンターテインメントとしてゲイを押し出せ、と命じられたら断るつもりだ。
「絶対に断ります。もう団体を辞めるかもしれない。そんな見世物扱い、タチの悪いイジリもいいところだし、ストレス。今の団体はそんなことはしないと思っていますけど」
プロレスラーの仕事、役割は理解しているが、それと自身がゲイであることは別。大策のプロレスラー像とセクシュアリティに対する誇り、そして覚悟を感じる言葉である。
「ゲイの芸能人には、生きていくため、という理由があるのもわかります。でも、次の段階はそういう姿ではないと思う。『ゲイなんですよ』『ああ、そうなんですか』くらいがベスト」
家族のことさえなければ、本当は自分も100%公表して活動したい。だから、早く世間の目が変わってほしいと思っている。
大策はゲイと自覚して日が浅い分、LGBTQとそれをめぐる話題、問題について勉強をしているという。
「ただ、途中でよくわからなくなることがあるんですよ。性ってなんなの? みたいに。僕が男性を好きなのは確かだけど、目をつぶって女性に気持ちいいことされれば、それでイケるような気もするし。だから、究極は男性か女性かではなく、『その人がどうか』という話なんじゃないかなーって」
大策の話を振り返ると、彼は女性でも男性でも、それを超越していても、魅力を感じる相手ならば自然と仲を深めてきた。大策はノンケかゲイか、なんて話も突き抜けて、自身が何度も口にした“フラット”さをすでに身につけているのかもしれない。であるならば“規格外”で魅せる、なんともプロレスラーらしい話である。
*本稿は実話をもとにしていますが、プライバシー保護のため一部脚色しています。
田澤健一郎(たざわ・けんいちろう)
1975年、山形県生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経てフリーランスの編集者・ライターとなる。野球をはじめとするスポーツを中心に、さまざまな媒体で活動している。著書に『あと一歩!逃し続けた甲子園 47都道府県の悲願校・涙の物語』(KADOKAWA)、共著に『永遠の一球 甲子園優勝投手のその後』(河出文庫)などがある。