『血の轍』は絵空事ではない!息子を“小さな彼氏”と呼ぶ母親の香ばしい承認欲求

――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。

『血の轍』1巻(押見修造・著/小学館)

息子を溺愛するあまり、執拗に過干渉する母親。その壮絶な毒親サイコっぶりが描かれるマンガ『血の轍』が話題だ。

主人公は中学2年生の静一。その母・静子は、静一を日頃からバカにしている静一の従兄弟・シゲルを崖から突き落とし、事故を装う。さらに、静一に好意を抱く少女からのラブレターを、「受け入れられない」と言って静一と一緒に破り、泣きながら抱き合って口と口でキス。相当なタマだ。

これを「過保護な母親を誇張して描いた絵空事」と片付けることはできない。なぜなら、“静子予備軍”ともいえる母親が、現代日本には相当数いるからだ。彼女たちは幼い息子を“小さな彼氏”と呼んで愛で倒している。「#小さな彼氏」でインスタグラムにあふれる、息子とのお出かけデート風景やかわいい寝顔。そこでは「ママだいすき」「ママかわいいね」「ママを守る!」といった息子の言動にどれだけキュンとしたかが、高い熱量で報告されている。ほぼ“萌え”の域だ。息子との口チュー写真や、息子にタキシードを着せたママとの手つなぎ写真をアップするツワモノもいる。

こういった息子の恋人扱いは以前からネット界隈でモヤつかれていたが、先だっての5月、そのモヤつきがついに爆発した。星野リゾートのリゾナーレ熱海が企画した「ママと息子の初めてのお泊まりデート〜お月見編〜」が炎上し、サイトから削除されたのだ。これは「母親と6歳以下の息子」が2人で宿泊するプランだが、内容はなかなか香ばしい。まず、幼い息子がホテルスタッフから「お月見タイムではママの手を引いて案内してあげよう」「レストランでママが座るときは椅子を引いてあげよう」といった、ホストテクニックさながらの“レッスン”を受ける。そして、ママの似顔絵を描かせてママを喜ばせ、ママの好みをもとにランプやブランケットの色を選び、タキシード姿でママを“エスコート”。夜はおそろいのパジャマを着てママにブランケットをかけ、ママを文字通りキュンとさせるのだ。

「なんちゃって」にしては、息子に求める疑似恋人的ふるまいの本気度が高すぎる。ネットには「息子に対する性的搾取だ」といった嫌悪感満載のコメントも見受けられた。ただ、結果的にアウト事案だったとはいえ、企画側に一定のマーケティング的な裏付けはあったはずだ。つまり、このようなニーズは現実に存在する。絵空事ではない。

なぜそんなニーズがあるのか。筆者は実際に幼い息子を持つ母親数人にヒアリングしたところ、ひとつの結論を得た。

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