【田澤健一郎/体育会系LGBTQ】サッカー強豪校でカミングアウトを封じた少年

――社会に広がったLGBTQという言葉。ただし、今も昔もスポーツ全般には“マッチョ”なイメージがつきまとい、その世界においてしばしば“男らしさ”が美徳とされてきた。では、“当事者”のアスリートたちは自らのセクシュアリティとどのように向き合っているのか――。

*本稿は実話をもとにしていますが、プライバシー保護のため一部脚色しています。

(写真/佐藤将希)

 東京のとある公園にある運動場。

 人工芝の上ではサッカーの試合が行われている。

 ゴールの前の混戦。競り合いになった2人の選手からボールがこぼれた。その刹那、ボールに素早く反応した大柄な選手が足を振り抜く。

 強烈なシュートがゴールキーパーのダイビングを無視するようにゴールネットを揺らした。

「体が大きいこともあって、子どもの頃からいろいろなポジションをやらされたんですけど、最後は一応、フォワードだったんで」

 試合が終わると、大柄な選手――鍼灸師として働く中澤誠(仮名)は控えめに笑った。物腰が柔らかく落ち着いた口調は、論理的な症状の説明がよく似合いそうである。

「選手の仕事はみんなバラバラ。まぁ、草サッカーを楽しむ休日の趣味仲間ですね」

 ただ、その仲間たちには共通項がある。誠も含め、選手はみなゲイなのだ。

「学生時代、ゲイの友人から教えてもらったのがチームに入ったきっかけです」

 気の置けないゲイ仲間と好きなサッカーを目いっぱいプレーする。普段の仕事では多くがゲイであることを隠しているというメンバーたち。ゲイだけで組んだチームで臨む草サッカーは、なによりのストレス解消。誠にとってもそれは同じだ。

「チームにはいろいろな人がいるから、ゲイ同士のつながりというか、世界が一気に広がりましたね」

 だが、誠が今のようにゲイとして充実した生活を送れるようになるまでは、時間を要した。

 30代の誠だが、試合を見ればフィジカルも技術もひとりだけ突出していることが素人目にもわかる。

「10代の頃は本気でプロを目指していました。高校では全国大会にも出ましたがプロになれず、どうしてもあきらめられなくて卒業後もアルバイトをしながら練習を続け、プロテストを受けていたんです」

 生まれは首都圏のベッドタウン。サッカーが盛んな土地柄で、小学生時代にボールを蹴り始めた。中学時代はJリーグクラブの下部組織に所属した時期もあるが、卒業後は「当時は高校選手権で活躍したほうがプロへの近道に思えたから」と高体連でのプレーを希望。知己のあったサッカー関係者の伝手で、関東圏のある強豪校を薦められる。

「サッカー部強化に取り組んで間もない高校で、指導者も実績豊富な方でした。場所が他県なので、部活に集中するなら寮生活になる。家を出ることはあまり想像していなかったのですが、周囲にはサッカーのために地方の高校へ進む選手もたくさんいる。『なら自分も』と進学を決めました」

 こうして誠は15歳で親元を離れ、Jリーガーという夢を追った。

「全国から選手が集まっていたので、最初はレベルの違いに愕然としました。部員全員、プロを目指しているようなチームでしたから。それでも必死に頑張って、なんとかレギュラーになり、全国大会にも出場することができました。ただ、僕も含め誰ひとり、プロから声はかからなかった」

 練習試合では田中達也(現アルビレックス新潟)や大久保嘉人(現セレッソ大阪)など、後に日本代表で活躍する選手たちとも戦い、力の差を見せつけられた。だが、誠はあきらめなかった。

「プロって本当にすごい場所だとわかったし、段違いの選手がいることも知りました。だけど、自分にとって、それはあきらめる理由にはならなくて。自分で無理と決めるのではなく、プロの目で見てもらって無理と言われたらあきらめようという心境だったんです」

 だから大学進学も就職もせず、卒業後はプロテストからJリーガーを目指す道を選んだ。しかし、現実は甘くなかった。

「プロテストに挑戦し続けましたが、結局、合格の返事はもらえませんでした。自分としては20歳まで受からなかったらキッパリあきらめると決めていたので、そこでタイムオーバー。今となってはもう少し粘ってもよかったかなとも思いますが、当時は『ここまでやったんだから』と自分なりに納得しました」

 その後は「選手は無理でもスポーツにかかわる仕事を」と現在の職業である鍼灸師を志し、改めて専門学校に入学。卒業後はクリニックで現場経験を積んで今に至る。

 なんとも愚直なアスリート人生。その生真面目ともいえる真っすぐな性格は、誠がゲイとして生きていく道程にも大きく作用した。

団体競技にマイナスになるからゲイである自分を押し殺した

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