渚にて(上)

伊豆、石廊崎、2010年

 笹岡啓子の連作「Shoreline」は、長い時間をかけて刻々と変化してきた日本列島の津々浦々の海岸線を被写体にしたものだ。笹岡の関心は、海と陸地とが複雑に入り組んだ岩礁や両者が曖昧に溶け合った磯、遠浅の浜辺、消波ブロックが積まれた波打ち際、海に突き出した埠頭、山からの水が海に注ぐ河口部などに向けられている。いずれも潮の満ち引きにより緩慢に風景が変わっていく場所だ。海とも陸地ともつかぬ両義的な領域への注視は、海に囲まれた日本の国土の曖昧な輪郭と時間の堆積を同時に浮かび上がらせている。

 広大な風景の中に釣り人や観光客、海藻採りに励む人々が点々と写り込んでいることがあるが、打ち寄せる波や岩礁のスケールに比して、仕事や遊びに勤しむ彼らの姿はあまりに小さく、儚げだ。自然が長い時間をかけて造形した波打ち際とそこに足を運ぶ人間とのコントラストが後者の生の短さや儚さを際立たせているからだ。水際に隣接する人間の居住地もまた、まるで砂上の楼閣のように脆弱で頼りなさげに見える。

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