――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。
aikoについて、どんなイメージをお持ちだろうか。「恋愛ソングしか歌わない、地味顔の女性シンガー」「『カブトムシ』と『花火』とテトラポットの歌(『ボーイフレンド』)くらいは知ってる」あたりが30~40代男性の主流だろう。なんなら「特に興味はない」が大半ではないか。
しかし、aikoはヤバい。
2021年3月23日放送の『マツコの知らない世界』(TBS系)でマツコは、aikoを「兄貴肌っていうか神々しいんだけど」「真ん中にめっちゃ女がいる」「芯のところにいるのはすっごいマブい女」と評した。
aikoのライブには約3割も男性がいるという。女子目線の恋愛ソングしか歌わないのに、これは一体どういうことか。ちなみに男性芸能人にaikoファンは少なくないが、そこには織田信成や川谷絵音も含まれる。なんだこの振れ幅は。
御年45歳になるaikoには、ある種の男たちを吸引する何かがあるのだ。それは大きく2つ。
ひとつ目は「変わらなさ」だ。これは、aikoと同年の1998年にデビューした椎名林檎・宇多田ヒカルと比べるとよくわかる。
林檎はこの20数年、メンヘラ文学少女的なイメージ、バンド活動、アダルトな大人の色香推し、国威発揚ソングなど、時代に合わせて作風を変幻自在に変化させてきた。宇多田は宇多田で、年を重ねライフステージが変わるごとに歌詞に内省の奥行きが増し、達観も進行している。
しかし、aikoはまったく変わらない。「好きな人が/彼氏が/元カレが、愛しい」といううわごとを、四季折々、多種多様なシチュエーションで23年間ずっと歌い続けてるだけ。どんな場所で何を見ても、全部に恋愛をぶち込み、強引に「彼が好き」という結論に持っていく。どんな料理にもカレー粉を入れてカレーにしてしまうがごとし。なお、林檎も宇多田も結婚・離婚・出産を経験しているが、aikoはそのいずれも未経験だ。
aikoは見た目も変わらない。試しにaikoを画像検索してみてほしい。ファン以外には、その写真が2000年のaikoなのか2010年のaikoなのか2020年のaikoなのか、わからないだろう。エイジレスな童顔・地味顔。凹凸の少ない小動物系ユニセックス体形。基本、青文字系カジュアル。基本前髪重め。女性は男性よりも加齢による見た目の変化が大きいはずだが、この変わらなさは化け物級ではないか。
そして2つ目の吸引要素が「前時代的な女の子らしさ」だ。aikoは詞先(詞を書いてから曲を作る)かつ、実際にあったことを書くタイプだそうだが、これがまた、23年間ずっと、「しおらしく一途に恋するオンナノコの気持ち」100パーの代物である。aikoの辞書に「ジェンダー」「フェミニズム」は存在しない。