『呪術廻戦』、『地獄楽』、『青の祓魔師』……バトルマンガで宗教がモチーフにされる理由

――「週刊少年ジャンプ」で連載中のマンガ『呪術廻戦』(集英社)が今、大きな話題になっている。

「呪い」をテーマに、呪霊と呼ばれる具現化した呪いと、呪術師たちとの戦いを描いた本作は、2018年に連載開始となると初期から安定した人気を獲得。20年10月~21年3月にかけてMAPPA(『進撃の巨人 TheFinalSeason』や映画『この世界の片隅に』など人気作を多数手がけるアニメ制作会社)によるテレビアニメも放送。今冬には劇場版映画の公開も予定されており、それらの追い風を受ける形で、3月には単行本の発行部数は4000万部を突破している。

 本作は主人公の高校生・虎杖悠仁(いたどりゆうじ)が、ひょんなことから自身が通う学校に眠っていた呪物「宿儺の指」を食べることから始まる。宿儺の指を食べたことで特級呪物「両面宿儺(りょうめんすくな)」が復活し、悠仁は「宿儺の器」として呪術師に捕らえられて死刑を宣告されるのだが、特級呪術師である五条悟の提案により、「すべての宿儺の指を食してから死ぬ」という猶予が与えられ、呪術師を育てる専門学校である「都立呪術高専」に入学。呪術師としての人生をスタートさせる……という、あらすじだ。

 ここで気になるのが主人公・虎杖悠仁に憑依している「両面宿儺」という呪物。さかのぼると『日本書紀』に「宿儺」の名で登場する両面宿儺は、仁徳天皇の時代に飛騨に現れたとされる異形の人・鬼神だ。ひとつの胴体に2面の顔、手足が4本ずつある奇怪な姿で描写されており、『呪術廻戦』で「呪いの王」として描かれるに足る姿ともいえよう。

 しかし、一方でその名の通り「両面」な部分もあったのか、地元の「飛騨経済新聞」によると「飛騨・美濃に伝わる説話では、山に住む毒竜や悪鬼を退治したり、民を率いて農耕を教えたり、山野を開拓して祈りの場所をつくるなどした救国の英雄として今も語り継がれている」とのこと。

 同作の重要なキーワードである両面宿儺だが、物語自体は特に岐阜県は関係なく、作者も東北出身だ。地方の伝承が急に注目されているという状況だが、マンガの歴史を紐解いていくと、本作の「呪い」や両面宿儺のように宗教や神話的な要素が登場すること自体は珍しいわけではない。例えば、今公開中の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』も聖書の要素や死海文書が登場するなど、キリスト教と結び付けられていたり、アニメ化が決定していて「ジャンプ」でも次世代の人気マンガといえる存在の『チェンソーマン』(集英社)も、登場する魔人たちは「天使の9階級」がモチーフにされているように、むしろ捉え方次第では、近年、宗教学や民俗学の観点から見てもマニアックで、さらに読者たちが考察したがるような、神話や伝承の要素が散りばめられたバトルマンガが増えているような印象すら受ける。 

 なぜ、バトルマンガに宗教的な要素が用いられやすいのか? そして『呪術廻戦』の両面宿儺という、チョイスのマニアックさの裏側にあるのは何なのか? 『完全教祖マニュアル』(筑摩書房)や『「バカダークファンタジー」としての聖書入門』(イースト・プレス)などの著者であり、宗教学とマンガ、双方に精通している作家の架神恭介氏に話を聞いた。

■バトル描写に説得力を生み出すための神話

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