【田澤健一郎/体育会系LGBTQ】陸上部監督との“かなわぬ恋”に泣いたゲイのスプリンター

――社会に広がったLGBTQという言葉。ただし、今も昔もスポーツ全般には“マッチョ”なイメージがつきまとい、その世界においてしばしば“男らしさ”が美徳とされてきた。では、“当事者”のアスリートたちは自らのセクシュアリティとどのように向き合っているのか――。

*本稿は実話をもとにしていますが、プライバシー保護のため一部脚色しています。

(写真/佐藤将希)

 遠くにそびえる山々が美しく見える陸上競技場。

 フィールドにはアルファベットで大きく大学名が描かれている。トラックは土ではなく、ポリウレタンを使った全天候型。それだけで、この大学がスポーツに力を入れていることがうかがえる。

 練習中の選手たちの中から何人かがトラックに設けられたスタートラインにつき、クラウチングの姿勢から、スタートの合図と共に飛び出す。すぐに集団から抜け出したのは体の大きなスプリンター。後続を引き離し、あっという間に100メートルを駆け抜けてゴール。彼は心地よさそうな表情でタイムを確認していた。

「将来的には世界陸上やオリンピックに出てみたいですけど、うーん、どうかなぁ? とりあえずは大学トップクラスを目指してはいますが」

 スプリンターとしての将来像をそう語るのは、19歳の永田豪士(仮名)。東京にある、ここ数年でスポーツ強化に取り組み始めた大学の陸上部に所属している。もうすぐ2年生という彼は180センチを超える長身。上半身、下半身共に、強靱で引き締まった筋肉をまとっていることが洋服越しにもわかる。
「いや、フィジカルは全然ですよ。高校時代の体のまま、ここまで来ちゃったというか。もう少し体重を増やし、ウェイトトレーニングもして、自分の“エンジン”をもっと大きくしたい」

 近年の世界陸上やオリンピックを見ればわかるように、海外の短距離の選手たちの多くは屈強な体つきをしている。今の時代、短距離に関しては日本人選手もフィジカルを鍛え上げ、パワーを身につけなければ世界とは戦えないのだ。まだ10代ながら大型でパワフルさを感じさせる豪士は、そんな時代を反映する新しい世代のスプリンターに見える。

 まさに将来を嘱望されたアスリート。

 ただ、豪士には陸上部の仲間にも家族にも話したことがない秘密があった。

 彼はゲイなのだ。

「なんとなく気づき始めたのは小学校4年くらい。男同士のふざけ合いがエスカレートして、チンチンをしゃぶり合う遊びをしたんですよ。自分はそれが悪い気がしなかった」

 友人たちの「うえー!」「キモい!」といった反応とは異なる感覚を持っている自分。

「それをなんとなく心の中で引きずったまま、中学生になって。2年生のとき、学校で性的マイノリティを取り上げる授業があったんです。そこで知識を得て『自分は同性愛者かも』と自覚し始めました」

 ただし、「厳密に言えば、ゲイではなくバイセクシュアルなんですけど」と豪士は言う。

「中学や高校では、彼女も普通につくって……というか、むしろ何人も付き合いましたから」

 背が高く、端整な顔立ちで、スポーツが得意。10代の男子であれば、それだけで女子にモテる要素。初めて彼女ができたのは小学校4年だという。

「早いと言われますが、付き合うといっても遊び。彼氏彼女ごっこ、ですよ。相手から告白されて『まぁ、いいか』みたいな」

 そんな内情だから、終わりもあっという間に訪れた。豪士はバイセクシュアルというよりも、モテるがゆえに自身がゲイと気づく前から女子とも付き合ってきた、ということなのかもしれない。ただ、ゲイとしての自分を感じ始めた頃と時期がリンクするのは偶然だろうか。

「今思えば、女の子と付き合っていたのは、自分の中で若干カモフラージュしようとするところがあったのかもしれません。自覚はしたけど、最初は認めたくない、という気持ちも強かったので。“普通とは違う自分”を受け入れたくなかった」

田舎で有名な高校生だからカミングアウトは怖かった

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