【神保哲生×宮台真司×会田弘継】アメリカ政治思想史で読むトランプとバイデン

――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

[関西大学客員教授・ジャーナリスト]
会田弘継

――トランプ政権の4年間は、本当に終わったのか? 1月20日、トランプ前大統領はホワイトハウスを去り、バイデン政権が誕生した。だが、大統領就任式でもっとも注目を集めたのは、ほかでもない毛糸のミトン手袋をはめて出席したサンダース上院議員だった――。こうした中、今回はアメリカ政治思想の流れを検証しながら、バイデン政権の真の課題を議論する。

『トランプ現象とアメリカ保守思想』(左右社)

神保 「無事」という言い方がいいのでしょうか、1月20日、トランプ元大統領がおとなしくホワイトハウスを去り、アメリカで平和裏に政権移行が行われました。政権移行に際して武力紛争が回避できたことがニュースになるとは、途上国でもあまりないことですが、これが今のアメリカの実態です。とはいえ、現職の大統領が新大統領の就任式への出席を拒んだのは、南北戦争直後のジョンソン大統領以来152年ぶりのことだそうです。

宮台 Qアノン(極右の陰謀論)系の妄想を楽しませてもらいました。トランプは大統領になどなる気がなかったのは明らかで、巨大な空白だから、人々の妄想を映すスクリーンになってしまった。また先進各国で日本だけが「トランプ万歳」で盛り上がっていて、古谷経衡君の素晴らしい分析によれば、安倍の後に出てきた菅があまりにもスカだったから、安倍の「右翼的」な部分をまったく継承せず、いわばロス状態になっているからだと。この中で民主制というのは無理なんじゃないか、と感じています。

神保 大統領就任式では、来賓席に座っていたバーニー・サンダースのラフなマウンテンパーカーと毛糸のミトン手袋に、もっとも多くの注目が集まりました。就任式はレディー・ガガやジェニファー・ロペス、カントリーシンガーのガース・ブルックスらによる熱唱や、今注目の詩人アマンダ・ゴーマンによる感動的な詩の朗読など、とても華やかなものでした。式典の来賓は高級ブランドのスーツやドレスに身を包んだ白人が大半を占めていて、彼らが高いところからアメリカの融和を訴えても、選挙でトランプを支持した7600万人のアメリカ人には響かないのではないかと多くの人が感じたのも事実のようです。「バイデンは、今日のアメリカの分断の根本がわかってないんじゃないか」と。そうした中にあってバーニーの「普段着姿」が、逆に多くの人の耳目を引いたわけです。

宮台 周りはセレブのパーティーに出るような服装でしたね。

神保 あの服装を見て、「さすがはバーニー」と感じる人が多くいる一方で、「あのような華やいだ祝いの場にあんなみすぼらしい格好で来るのか」と、それを蔑むような人たちも大勢いるのが、今のアメリカの分断の根底にあります。今回はバイデン政権の発足に際して、改めてトランプ現象とは何だったのかを検証するべく、アメリカの政治思想史に詳しい関西大学客員教授でジャーナリストの会田弘継さんをゲストにお招きしました。最初に、会田さんはあの就任式にはどんな印象を持たれましたか?

会田 面白かったのはやはり、今のサンダースの話です。ファッション誌などもすぐに取り上げて、大統領でもレディー・ガガなど豪華なゲストでもなく、バーニー・サンダースが数時間にわたってネット上のトレンドの1位を走り続けた。もちろんそこには上手な仕掛けがあったかもしれないが、やはり人々は求めている何かをそこに見たのかなと。

神保 トランプ政権は一応終わりましたが、それでトランプ現象がなくなるわけではありません。バイデン政権はアメリカの分断を少しでも解消できると思われますか?

会田 現状を理解する上で基本的なところからお話ししますと、これまでアメリカの二大政党は極めて緩やかな政党で、党議拘束が弱く、各州の共和党、民主党の連合体のようなものでした。1980年代、90年代以降、イデオロギー的な対立が激しくなり、2つの政党が右左に分かれていくような状況が進んだにもかかわらず、まだ緩い面を持っている。そこに外側から突然、トランプ、あるいはサンダースのような人がうまく入り込み、第三政党を作るのではなくて、二大政党の仕組みの中で一方は大統領になり、もう一方はほぼ大統領候補になりかける――これはすごいことです。

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