まるで「魔法の薬」のように描かれる! 狂乱、洗脳、セックス中毒に……マンガのトンデモ(?)ドラッグ描写

――これまで数々のマンガ作品で、麻薬が登場してきた。しかし、時に麻薬はマンガの中で万能薬のようなイメージで描かれることもあり、かなり飛躍した使い方や描写がされることもある。そこで、通常ではあり得ない「トンデモ麻薬描写」が描かれている作品を紹介していきたい。

『エンドレス・ドラッグ・ウォーズ リスク』笠原倫/ビーグリー/電子書籍版1巻より。「シャブは無害だ」など、数々の迷言を残してきた鬼山丈。

 社会ではご法度である麻薬も、フィクション作品ではストーリーを盛り上げるツールのひとつとして自由に使用されている。古くは原作版の『サザエさん』で覚醒剤がギャグのネタになっているし、刑事モノや極道モノ、さらに不良マンガにおいては必要不可欠な存在ともいえる。

 しかし、中には麻薬を使用することによって超人的なパワーを手に入れたり、笑いながら無差別殺人を行ったり、性的感度を1000倍に引き上げるといったような、本来の効果から飛躍しすぎた描写も数多く見受けられる。

 そこで今回は、令和以前のマンガ作品における、文字通りの「トンデモ麻薬描写」を紹介しつつ、現実に存在する覚醒剤や大麻などに、マンガで描かれるような効果はあるのかを、有識者の方々に聞いていきたい。

フラッシュバックにはサックスで打ち勝て!

『ドーベルマン刑事』原作:武論尊 、作画:平松伸二/サード・ライン/電子書籍版22巻より。覚醒剤を断つために治療中の久保康彦は、テレビ局のプロデューサーに無理やり覚醒剤を打たれたことで禁断症状に見舞われ、暴力団の事務所を襲ってしまう。本心では覚醒剤をやめたい康彦だが、体はいうことをきかずに血の涙を流してしまう。

 まず、マンガを掘り下げる前に、近年話題になったフィクション作品の麻薬描写といえば、昨年ドラマ『相棒』(テレビ朝日系)のシーズン17に登場した「シャブ山シャブ子(以下シャブ子)」だろう。

 女優の江藤あや演じるシャブ子は言うまでもなく覚醒剤依存症者であり、暴力団に操られて刑事を殺害する役どころなのだが、彼女の描写に対し一部の有識者から批判の声が上がったのだ。いったい何が問題だったのだろうか? 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所で薬物依存研究部長を務める精神科医の松本俊彦氏は、次のように解説する。

「シャブ山シャブ子の描写には3つの問題点があると考えています。ひとつは、覚醒剤によって引き起こされる薬理作用が事実と異なるということ。覚醒剤を使った人があのように暴力的な行動を起こすことはまれで、多くの場合、家にこもりがちになります。2つ目は、そのように事実と異なる描写をすることによって、実際に依存症に陥っている人が『自分はこんなふうになっていないから、まだ大丈夫』とタカをくくってしまい、治療のきっかけを奪ってしまうこと。そして3つ目は、『精神を病んだ人=暴力的で危険な行動を起こす』という、イメージを抱かせることによって、薬物問題とは別にメンタルヘルス問題全般に対する差別や偏見を助長してしまうということです。シャブ子の描写は、薬物依存症の当事者に誤ったイメージを植えつけてしまうだけでなく、偏見によって精神病患者が社会的に孤立させられてしまう危険性もはらんでいるといえます」

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