最後の監督作『みをつくし料理帖』とは――映画界の生きる伝説・角川春樹再研究!

――“角川映画”をプロデュースし、日本エンタメ界に大きな功績を残した角川春樹。その波瀾万丈な生きざまも広く知られているが、先頃、“生涯最後の監督作”といわれる映画『みをつくし料理帖』が公開された。本人に直接話を聞き、そして現時点から過去作品を振り返ることで、この生きる伝説を改めて研究する!

(写真/西村満)

『みをつくし料理帖』

享和2年(1802年)の大坂、8歳の澪と野江は姉妹のように仲の良い幼なじみだった。しかし、大坂の町を大洪水が襲う。両親を亡くした澪は天満一兆庵の女将である芳に引き取られるが、野江の消息は不明。それから10年後、澪は江戸・神田の蕎麦処「つる家」で女料理人として働く一方、野江は吉原の遊郭で幻の花魁「あさひ太夫」と名乗っていた。やがて、澪が苦心して生み出した料理によって2人は再び引き寄せられていくのだった。澪を松本穂香、野江を奈緒が演じる。角川春樹は製作・監督を務めた。全国公開中。
配給:東映
(C)2020映画「みをつくし料理帖」製作委員会

 1970年代から80年代にかけて、今では当たり前になったメディアミックスによる大胆な広告戦略で、娯楽映画の一時代を築き上げた革命的プロデューサー、角川春樹。『犬神家の一族』『セーラー服と機関銃』『時をかける少女』といった数々の名作を世に送り出した一方、プライベートもかなりドラマチック。いわゆる“お家騒動”や6度の結婚など「事実は小説より奇なり」を地で行く破天荒な人生は、自由でおおらかだった時代の空気と共に興味をそそられる。

 そんな角川が78歳にして、“生涯最後の監督作”として映画『みをつくし料理帖』を完成させたのだ(ストーリーはコラム参照)。過去に2回、テレビドラマ化されている本作は、髙田郁による累計発行部数400万部を突破するベストセラー時代小説シリーズを原作とする。シリーズの1作目がハルキ文庫(角川春樹事務所)から出版された2009年当初から、角川は原作を敬愛する人物のひとりでもある。ゆえに、満を持して挑んだ作品のように思えるが、そう単純な話ではなさそうで……。なぜ、10年ぶりに監督をすることになったのか――。そこには、映画顔負けの予測不能な展開が!

白鳳と天狗を見て監督を決意した

――『みをつくし料理帖』は10年ぶり8作目の監督作だそうですが、なぜこのタイミングで、この作品だったのでしょう?

角川 原作が出たのが11年前で、髙田郁さんはその前年に『出世花』という作品で祥伝社からデビューしていました。1万5000部刷って、売れたのが500部くらいだったそうですが、そのうち200冊を本人が買い、200冊を私が買っていました。つまり書店で買った読者は、実質100人しかいなかった。だけど、私はこの作品が好きで、髙田さんを売り出したいと思ってね。だから、ウチで書いてもらえることになって、『みをつくし料理帖』のゲラを読んだときは本当に感動しましたね。私自身がゲラを持って書店営業に行きましたから。それくらい思いが強かったんです。

 同じ頃、NHKエンタープライズのプロデューサーから「角川さん、『おしん』みたいな時代小説はないですか?」と聞かれたので、『みをつくし料理帖』のゲラを送りました。その後にね、不思議なことが起こったんです。

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