――あまりにも速すぎるデジタルテクノロジーの進化に、社会や法律、倫理が追いつかない現代。世界でさまざまなテクノロジーが生み出され、デジタルトランスフォーメーションが進行している。果たしてそこは、ハイテクの楽園か、それともディストピアなのか――。
今月のテクノロジー『ニコラ』
2014年アメリカの実業家、トレバー・ミルトンが創業した、燃料電池トラックを開発するスタートアップ。社名はテスラと同じく、発明家のニコラ・テスラに由来する。1回の水素燃料チャージで1000キロ以上を走れる商用トラックを売りに、1台も出荷せずに、2020年6月にSPACで株式上場。ピーク時に、時価総額3兆円を付けた。
人の姿も、家もビルもない、果てしなく広がる土漠。地平線に広がる山々をバックにして、未来感あふれる大型トラックが、一本道を走り抜けてゆく――。
これは2018年1月、米国のベンチャー企業である「ニコラ」が公開した映像だ。
14年に創業したこのニコラは、今をときめく電気自動車(EV)や、さらに水素で走ることができる未来のトラックを造っているという触れ込みで、大きな注目を集めてきたスタートアップだ。
創業者のトレバー・ミルトンは、その明るい未来を語り続けてきた。
「次の10年で、フェラーリのような自己表現をするための車以外は、すべて電気自動車になる。電気や水素より優れたものはないし、ニコラはその両方でリーダーになる」
そして環境に優しいトラックたちと、全米を網羅する充電ステーションのネットワークを築き上げると約束してきたのだ。2020年6月には、米ナスダック市場に上場。株価は上がり続け、一時は時価総額が3兆円を超えるまでに膨らんだ。
まだ1台も出荷する前から、アメリカを代表するフォードよりも価値のあるベンチャーに躍り出たわけだ。
さらにまた米自動車大手のゼネラル・モーターズから、約2000億円の出資を取り付けたと発表(9月8日)。歴史的な自動車メーカーと手を組んだというニュースにより、いよいよ未来がやってくるとの印象を与えた。
実際に水素で動く商用トラックは、事前注文だけで1万4000台に上っていたという。
ところが、その直後に「爆弾」が投下されたのだ。