――今や世界2位の経済大国になった一方で、香港のデモに対して強権的な弾圧を行うなど、人権の観点でも問題行動を取り続ける中国。日本を含む他国のメディアでは「民主主義の死」「一党独裁の恐怖」と評されることも多い。本稿では、そんな「民主化しない中国」の謎を、数冊の推薦書を挙げてもらいながら、社会学者の橋爪大三郎氏に解説してもらう。
(絵/川崎タカオ)
19年から激化の一途をたどってきた香港の民主化運動に対し、警察の取り締まりも厳しさを増している。6月30日の香港国家安全維持法の施行後は、民主派の書籍が閲覧禁止になったり、民主派運動家の選挙立候補資格が取り消されたりと、民主主義社会では考えられない事態になっている。その背景に、中国共産党の一党独裁的な政治体制があるのは周知の通りだ。
世界2位の経済大国となった国家で、このような政治・社会体制が維持されていることを、我々はどう受け止めればいいのか。また経済成長を遂げた国家は、その過程で民主化していくのが常というイメージがあるが、なぜ中国では民主化が起こらないのか。
本稿では、『隣りのチャイナ 橋爪大三郎の中国論』(夏目書房/2005年)、『おどろきの中国』【1】などの著書があり、中国に関する新著も構想中の社会学者・橋爪大三郎氏に登場いただき、中国の現状や近現代史、中国社会の行動様式について深く知ることのできる書籍を推薦してもらいながら、「中国と民主化」の関係について解説をしてもらった。
まず、「中国の近現代史における『民主化』や『弾圧』の詳細がわかる書籍」をたずねたところ、「そうしたテーマの書籍ではいいものが非常に少ない」とのことだが……。
「日本でも広く読まれたのは、20年以上前に出版されたユン・チアンさんの『ワイルド・スワン』【2】ですね。この本は、1952年に四川省で生まれた女性とその一族の経験をもとに、中国現代史の激動がミクロな視点から描かれている。その続編の『マオ―誰も知らなかった毛沢東』(講談社/05年)も、モスクワで開示された膨大な資料をもとにしていて、毛沢東がどのような指導者だったのかわかる内容です。この2冊はご存じの方も多いと思うので、今回はそれ以外の書籍をご紹介します」
選出してもらった書籍は当企画下段で解説するが、社会学や経済学の研究者が著した重厚な書籍が並ぶ。まず、日本人が中国社会を見る上で読んでおくべき書籍として、橋爪氏の師にあたる小室直樹氏の『小室直樹の中国原論』【3】を挙げてくれた。