――新型コロナウイルスは出版業界にも影響を及ぼし、例えば雑誌は軒並み発売延期や合併号で売り上げが落ちた一方で、小学校の休校によって学習参考書や児童書は特需が生まれた。また、ジャンルによっても売れ行きの明暗は分かれたようだが、果たしてコロナ禍で売れた本とは一体何なのか?
新型コロナウイルス感染拡大によって、さまざまな業界で新しいビジネスの形態への対応と模索が続いているが、ライフスタイルの変化などに伴い、需要が大きく左右されるコロナ禍では出版業界も散々な影響を受けている。
外出自粛などの影響で世界経済が危機に瀕している一方で、巣ごもり需要やDX(デジタルトランスフォーメーション)が注目を浴びているが、このページでは改めてコロナ禍の出版ビジネスへの影響を振り返りながら、コロナ時代の展望を紹介していきたい。
残存者利得が発生して街の本屋はうれしい悲鳴
緊急事態宣言下にあった4~5月。都心への人出が減り、住宅街に近い商店街などでは例年以上に繁盛するお店が続出するような現象も首都圏では散見された。
書店も例外ではなく都市部の大型店が休業した一方で、そうした人々の生活圏にある“街の本屋”や郊外の書店は営業を続け、家で過ごす時間が増えた人々のニーズをキャッチして、前年比を超える売り上げを伸ばす店舗が多かった。
「東京都で本は『生活必需品』扱いになったので、全国的にも書店は営業を続けるという流れになりましたが、店が入る商業施設の判断に従って休業するケースが多かったですね。他方で営業していた店舗は軒並み売れて、緊急事態宣言中の売り上げは前年比200%近くに達した店も少なくないです。特に好調だったジャンルが学習参考書(以下、学参)で、『うんこドリル』(文響社)や『ドラゴンクエストゆうしゃドリル』(スクウェア・エニックス)などは売れに売れて、ジャンルとしての学参は前年比の300%程度に達しました」とは、ある取次関係者。
しかし、出版業界の全体の売り上げとしては、首都圏の大型店が休業した影響が大きかったようだ。文化通信社専務取締役で、主に出版業界の動向について取材や執筆をしている星野渉氏は次のように解説する。