――ゼロ年代とジェノサイズの後に残ったのは、不愉快な荒野だった?生きながら葬られた〈元〉批評家が、墓の下から現代文化と批評界隈を覗き込む〈時代観察記〉
鬼滅が完結しても、伝奇バイオレンス路線の読者は『呪術廻戦』と『チェンソーマン』で継承できるのが、「週刊少年ジャンプ」の底力である。
最近、ウェブ系の書評記事はタイトルに『鬼滅の刃』が付いているだけでアクセス数が段違いだそうで、関係ない記事でも無理矢理『鬼滅の刃』と絡めればバズるのだ、というノウハウを自慢されて閉口しているのだが、実際、最新刊の発売では大行列、オリコンランキングは既刊全19巻が上位を占める状況だ。昨秋のテレビアニメがきっかけとなったマニアックな人気爆発に加え、コロナ禍の休校から動画配信サイト経由でアニメを観た低年齢層の新規読者が増えて第二波がやってきたという、役満を連チャンしたような幸運に恵まれたのだが、恩恵を受けたのは書店への配本回数を減らすなど、瀕死の状態だった出版取次だ。緊急事態宣言による書店の休業が多かった4月分の推定販売金額は、コミックスと雑誌を合わせた数字が前年同月比0.6%減で抑えられている。コミックスに限れば書店売上12%増の好調だ(書籍は15%減)。
もっとも、この数字には少しばかりカラクリがある。休業店舗のPOSデータを前年比計算に入れていないのだ。なので、営業を継続し、『鬼滅の刃』既刊増刷分が集中配本された大型チェーン店やネット書店の成績がより強く数字に反映される一方で、休業している小規模個人経営店は雑誌を返品できず、返品率が「改善」されたからだ。更に言えば『鬼滅の刃』バブルがなければ、昨秋以降のリアル書店の数字は絶望的なレベルだったはずで、あちこちから怨嗟の声も聞こえていたのだが、統計だけ見るとこれらの問題が見えなくなる。というか、休業した書店が返品できなかったということは、営業再開以降にまとめて返品するということで、これから反動が来るような気がする。