【塚田桂子】新型コロナウイルス以降のラッパー情勢――アメリカのラッパーらが見せた手厚きコロナ支援と制作意欲

――ここまでは国内のワイドショーや報道番組の傾向を分析したが、本稿では新型コロナウイルスの影響によって動いた海外のラッパーたちの動きに着目してみたい。米国におけるコロナの犠牲者は、アフリカ系アメリカ人がもっとも多いといわれ、そんな日本ではなかなか報道されることのない実情と、その支援の形を追う。

クリーブランド出身のラッパー、ダベイビーが4月にリリースしたアルバムは、まさに今の現実を反映したアートワークとなっている。

 世界中を恐怖に陥れている新型コロナウイルスは、各国で都市封鎖を行ってもなお、収束の予測が立たないまま、その犠牲者は増え続ける一方だ。そんななかアメリカでは、多くのラッパーなどが医療従事者や患者、そして犠牲者たちに献身的な支援を行っている。ここでは彼らの活動に焦点を当てて社会情勢を探ってみたい。

 まずラッパーのカーディ・Bは、自身のファッション・ブランド「Fashion Nova」と協賛し、パンデミック中に経済的困難を抱える人たちに最高100万ドル(約1億円)を寄付すると発表。また彼女は食事の代わりとなる2万食のヴィーガンドリンクをニューヨーク市の病院に寄贈した。

 今回、寛大な支援を行ったひとりに、シンガーのリアーナが挙げられる。彼女が設立した慈善団体「クララ・ライオネル財団」は、コロナ救助活動のために500万ドル(約5・3億円)を、またジェイ・Zと協力してロサンゼルスとニューヨークに住む不法滞在労働者、救急隊などの第一対応者、囚人、年配者やホームレスを支援するために、200万ドル(約2・1億円)を寄付。さらに彼女はツイッターの最高責任者ジャック・ドーシーと協力し、パンデミック期間中に家庭内暴力を受けているロス居住の被害者救済のために210万ドル(約2・2億円)を寄付。アメリカでは今もなお家庭内暴力の被害に遭っている男女が多く、都市封鎖によって被害者が救済を受けることがより困難になっている。これはリアーナ自身も過去に元彼であるクリス・ブラウンに暴力を受けた経験を持つことから、被害者の苦しみに共感できたことも大きいのではないだろうか。

 そしてラスベガスのMGMホテルでショウを行ってきたブルーノ・マーズは、コロナで経済的損害を受けたMGMリゾーツ財団の従業員のために、100万ドル(約1億円)寄付することを明らかに。またケンドリック・ラマーを輩出した〈TDE〉の創設者アンソニー・ティフィスが、LA暴動が起こったサウスセントラルはワッツ地区の311世帯の公営住宅の家賃を肩代わりしたというニュースも話題に。これらの行為は単なる寄付というよりも、自分と深い繋がりを持つ人たちや同胞の痛みを肌で感じられるからこそ、家族の面倒を見るような想いで行動に移しているようにも感じられる。

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