――00年代の後半に社会学者の山田昌弘氏、ジャーナリストの白河桃子氏によって生み出された「婚活」という言葉はすっかり一般的になり、テレビや雑誌、ネットメディアには玉石混淆の情報があふれている。期待を増幅させるその情報の中身に、問題点はないのだろうか?
『「婚活」時代』(ディスカヴァー携書)
「30代女性の婚活はなぜ苦戦してしまうのか」「女子校育ちで一度も交際経験のない36歳の葛藤」――。
こんなタイトルの記事が並ぶのは、東洋経済オンラインに掲載されている、「婚活現場からのリアルボイス 仲人はミタ」なる連載。仲人にしてライターをしているという鎌田れい氏によって書かれたこれらの記事には、婚活に挑戦するも、なかなかカップル成立とならず葛藤する女性のストーリーが書かれている。
前者の記事では、20代のときは7歳年上でバーの店長をしているスマートな男性と恋愛していた女性が、30歳を過ぎると出会う男性からは身体の関係を求められるばかりで真面目な交際につながらない。婚活アプリを始めるも、20代に付き合っていた彼よりも素敵な男性に出会えないので、結婚する気持ちになれない、というケースが紹介される。
後者の記事では、タイトル通り女子校育ちで男性との交際経験のない36歳の女性が、婚活を始めて男性と何度かデートを重ねるも、男性から「連絡するのはいつもこちらのほうからで、彼女から連絡が来ることがないし、LINEの返事も1、2日遅れるのが物足りない。同時交際している別の女性はもっと積極的で、そちらのほうが楽しいので」と交際終了を告げられてしまうというケースを紹介。人を好きになる熱量が少ない女性には婚活は難しいのかもしれないと、記事は結ばれている。
この連載では女性だけでなく、年収もそれなりにあり、7年も婚活しているのに、恋愛よりも面倒な婚活のノリに乗り切れず、いつまでも結婚に至らない青年など、男性のケースも紹介されている。
こういった記事はPVはそこそこのようだが、「プレジデントオンライン」「女子SPA!」といったサイトでも、婚活のケース例を紹介する連載がある。実際に婚活している人には読まれているのだろうが、未婚既婚問わず、婚活とはどういったものか、どのような人がどんな婚活をしているのか、関心のある人にも幅広く読まれているのだろう。その中には、かつてモテていた女性の婚活がうまくいかないケース例を読んで、昔自分をフッた女が結婚できないのを聞いて溜飲を下げるような、そんな心境の読者もいるやもしれない。
また、女性に対する男性の厳しい回答が大量に投稿されるのは、読売新聞が運営する投稿サイト「発言小町」。2019年10月8日に投稿された「婚活し続けて20年。50歳未婚女性の婚活」という書き込みには、20年5月1日時点で実に466件ものレスがつき、「あなたのやる気のない仕事ぶりが悪い」「周囲を見下しているのが悪い」「自分を客観的に見れていない」などと総スカン。しかし、何がこれだけ多くの男性をして、顔も知らない女性に非難の声を浴びせるほど熱くさせるのか? メディアに婚活という言葉が登場するようになったのは、ここ10年あまりのことだが、「婚活」という言葉には、人々の心をザワつかせてしまう普遍性があるようである。