男は別名保存、女は上書き保存――『マリッジ・ストーリー』で学ぶ離婚における女子行動学・初級編

――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。

 ここ2年ほど、バツイチ男性に離婚の顛末(と、元妻への恨みつらみ)を聞く――という因果なルポを、某女性向けサイトで連載している。そういう身からすると、都会のクリエイティブ&インテリ夫婦の離婚劇を描いたNetflix映画『マリッジ・ストーリー』は、「離婚で学ぶ女子行動学・初級編」として、なかなかよくできた教材だ。

 主人公はNYで小さな劇団を主宰し、自身が舞台監督でもあるチャーリー(アダム・ドライバー)と、その劇団で看板女優を務めるニコール(スカーレット・ヨハンソン)の夫婦。8歳の息子がひとりいる。不仲の理由は、ニコールの女優としての野心を、チャーリーが認めなかったから。テレビドラマシリーズ出演のオファーを受けたニコールは、かつての夢に再チャレンジしたいが、そのためには劇団を退団してLAに拠点を移さねばならない。しかしチャーリーは、資金が潤沢とはいえない劇団から看板女優が抜けるのを、どうしても阻止したい――。

 なお、監督と脚本を手がけたノア・バームバックも離婚経験者で、元妻は女優のジェニファー・ジェイソン・リー。監督と女優。……おいてめえ、絶対実体験入ってるだろ。

 まずは離婚原因から見てみよう。これは双方の言い分を整理するとわかりやすい。

 妻・ニコール「無名の劇団が注目を浴びるようになったのは、映画女優だった私が劇団に入ったから。その後劇団の評判は上がったのに、私の功績は正当に評価されない。私の働きはチャーリーの活力にエサを与えているだけ。チャーリーは私を独立した人間として見ていない。私は妻と母の役割しか与えられていない。これは完全に搾取よ」

 夫・チャーリー「ニコールが僕の劇団に入ったのは、ニコール自身の意思。映画女優時代に感じられなかった“生きている実感”を持てたのは、劇団に入って舞台女優になったから。なのに僕を責めるのはお門違い。しかも、ニコールがどうしても結婚したいと迫るから、僕は遊びたかったのを我慢してしぶしぶ結婚した。つまり結婚して妻・母になりたいと言い出したのはニコールのほう。なのに、妻や母を求められるのが嫌だって一体?」

 要するに、ニコールは「変化する状況に合わせてくれ」、チャーリーは「最初と約束が違う」だ。ライフステージの変化に応じて自分ごと作り変える女性と、頑なに作り変えない男性。それ系の本には必ず書いてある、典型的な男女の性差である。

 関係破綻が不可避になって以降も、ちょいちょい「情」を男に出してくるのも、女性特有だ。

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