――2010年代、レン・ハンという中国の若手写真家がセンセーショナルかつユーモラスなヌード写真で世界的なスターとなったものの、最期は自殺してしまった。このことは日本でも一部で話題となったが、中国にはほかにどんな写真家がいるのだろうか? 表現規制と向き合いながら、新たなイメージを開拓する者たちに光を当てていこう。
『The Chinese Photobook: From the 1900s to the Present』(Aperture)は、2016年に出版された分厚い中国写真史の書籍。
中国でもっとも有名な写真家といえば、ある程度アート写真に詳しい人はレン・ハン【1】の名を挙げるだろう。彼は性的な表現がタブーとされる中国において、主に友人たちのヌードを撮り続け、そのユニークな構図やヴィヴィッドな色使いも相まって世界的に高い評価を得たが、2017年に29歳(享年30歳)の若さで自ら命を絶った。
あるいは、広告やファッションなど商業写真の分野ではチェン・マン【2】の知名度が圧倒的に高い。1980年生まれの彼女は00年代前半に頭角を現し、中国版の「VOGUE」や「Harper’s BAZAAR」、イギリスの「i-D」などの雑誌を中心に活躍。中国市場の成長と共に成功を収めた写真家といえよう。
ただ、この2人にしても日本での一般的な認知度はそう高いとはいえず、いわんやそれ以外の中国人写真家をや、である。本稿では、今の中国で注目すべき写真家をピックアップしながら、中国の写真シーンに迫りたい。
「日本ではレン・ハンが有名ですが、中国のアート写真という分野で先駆的な活動を行った人物として、リン・チーペン【3】がいます」
そう話すのは、美術書や写真集の出版、海外書籍のディストリビューションなどを手がける出版レーベル〈T&M Projects〉の代表・松本知己氏。
「リン・チーペンは79年に広東省で生まれ、今は北京に住んでいます。彼は03年から自身のブログに“No.223”という偽名ウェブネームで写真と短文をアップし、また写真集を自費出版するなどして、当時の中国の若者たちに大きな影響を与えました。現在、特に30代以上の写真家にとってカリスマ的存在です。キャリア初期からヌードを撮り続けていますが、ただ親密さを表現しているだけでなく、身体を通してセクシュアリティや人間のありようを問うているようで、そこには一貫した美意識が感じられます」(松本氏)
そんなリン・チーペンのブログの熱心な読者のひとりがレン・ハンであり、この2人の活動により中国の写真は世界で認知され、また国内からも次世代を担う写真家が次々と登場している。そこで大きな役割を果たしているのが、07年に北京に設立された〈三影堂撮影芸術中心〉という写真センターだ。
「三影堂は写真コンテストも主催し、そこには海外在住の中国人も含めて4000人以上が応募します。日本だとキヤノンが主催する『写真新世紀』が有名ですが、その応募数は2000人弱ですから、規模も競争率も次元が違います。また10年代以降、三影堂以外にも写真コンテストを主催する団体がいくつも現れ、日々若い才能が発掘されています」(同)