女性性を超越したゴッドマザー『マレフィセント』が示す闇落ち女子の生きる道

――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。

 60年前のディズニー長編アニメ『眠れる森の美女』(59)の悪役であるマレフィセントを主人公にした実写映画『マレフィセント』(1作目は2014年公開、続編『マレフィセント2』は現在公開中)が、いろいろとザワつかせる内容だ。

 本作は、長らくディズニーが“プリンセス=聡明な美女”という社会的強者側から描いてきた物語を、“誰からも疎まれる悪役”たる社会的弱者の側から描きなおす、歴史的転向の体現ともいえる。この「社会的弱者」が現実世界で示すのは、「王子様と結婚して幸せに暮らしましたとさ」と形容される以外の、すべての女性にほかならない。

『眠れる森の美女』はこんな話だ。ある国で姫が誕生してオーロラと名付けられるが、誕生セレモニーに呼ばれなかった魔女マレフィセントは腹いせに、「16歳の誕生日の日没までに糸車で指を刺して死ぬ」という呪いをオーロラにかける。オーロラの父王ステファンは国中の糸車を焼却し、オーロラを安全な場所に隔離。しかし16歳の誕生日日没の直前、彼女はフィリップ王子と出会って一目惚れ。そこにマレフィセントが登場して呪いが実現し、オーロラ姫は眠りにつく。が、フィリップがマレフィセントを倒し、オーロラにキス。すると呪いが解けて結婚。めでたしめでたし。

『マレフィセント』1作目では、この話を大きく4つの点で改変した。

(1)マレフィセントが呪いをかけた理由は腹いせではなく、幼い頃に愛を誓いあったステファンが権力欲にとりつかれて裏切ったから、その報復。
(2)オーロラの世話をする妖精たちがあまりにもポンコツなのを見かねたマレフィセントが、隔離中のオーロラを陰から守護し、成長を見守る。
(3)眠りに落ちたオーロラを目覚めさせたのはフィリップのキスではなく、マレフィセントのキス。
(4)オーロラとマレフィセントは疑似母娘として仲良く暮らす。

 なお、2作目ではオーロラとフィリップとの結婚話が持ち上がり、フィリップの母がマレフィセントを敵視することからバトルが始まる。

 2作に共通して取り扱われているのは、ズバリ「母性」と「貧困」の問題だ。

 まず「母性」。1作目では(3)が示すように、彼氏の愛より(疑似)母親の愛のほうが強いものと断定される。このシーンは事実上、1作目最大のキモにしてサプライズだ。ちなみにオーロラの母は亡くなっているので、「生みの親より育ての親」という主張も強い。

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2024.11.21 UP DATE

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