【神保哲生×宮台真司×印鑰智哉】メディアが報じないアマゾン大火災と日本企業の関係

――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

『抵抗と創造の森アマゾン: 持続的な開発と民衆の運動』(現代企画室)

[今月のゲスト]
印鑰智哉(いんやく・ともや)
[日本の種子を守る会アドバイザー]

――アマゾンの森林火災は以前から続いているが、今年に入りその被害が拡大し、一部のニュースで取り上げられるようになった。報道では焼き畑農業が原因だというのが定説になっているが、ブラジルの開発問題にも詳しい印鑰智哉氏は、ブラジル現政権の開発政策と密接に絡み合っており、大きな責任の一端を日本も担っているのだという――。

神保 今回は、ブラジルのアマゾン川流域の火災がテーマです。宮台さん、ブラジルというと、まず何を思い浮かべますか?

宮台 80年代はボサノヴァが好きだったので、アントニオ・カルロス・ジョビンのアルバムばかり聴いていました。90年代に入ると今度はF1マニアになり、そこからはブラジルといえばアイルトン・セナですね。そして2000年代に入ると、森、あるいはアマゾンがモチーフの映画が出てきました。

 僕はこの十数年間、人類学の新しい展開を追いかけていて、エドゥアルド・ヴィヴェイロス・デ・カストロという人類学者が、アマゾンのリサーチを通じて発見した森の世界観、あるいは森の哲学と呼ばれるべきものを、大学のゼミでもフォローしています。

神保 さすがですね。僕がブラジルと聞いて最初に思い起こすのは、ジャイアント馬場のライバルだったボボ・ブラジルですが、今回のアマゾンの森林火災はきちんと取り上げたいと思います。というのも、この問題は、単に地球規模の環境問題というだけでなく、日本にも深い関係があり、またメディアの人間である我々にも大きな責任があるからです。

 ゲストをご紹介します。日本の種子を守る会のアドバイザーで、アジア太平洋資料センター(PA RC)、ブラジル社会経済分析研究所(IBASE)などを経て、現在はフリーの立場で活躍されている印鑰智哉さんです。まず、ブラジルウォッチャーとして、今アマゾンで起きていることの世界的な注目度や報道について、どうご覧になっていますか?

印鑰 とにかく、国や地域によって反応が極端に違います。南米から大豆を大量に輸入しているヨーロッパにおいては、この問題に非常に強い関心が寄せられている。このあとご説明しますが、アマゾンの大火災には大豆栽培が大きく影響しており、ヨーロッパでは「自分たちが関わっている」という意識があって、また市民活動でも大きくキャンペーンが行われているため、話題になる素地があるんです。日本は南米よりアメリカから大豆を輸入していることもありますが、そもそも「日本とブラジルの関係」というテーマはマスメディアであまり扱われていない、という状況です。

神保 ブラジルはサッカーでも有名ですし、なんとなくなじみのある国のように思っていましたが、ついこの間まで軍事政権だったことも含めて、意外と知らないことの多い国だと思いました。

宮台 僕も「アマゾン火災の原因は野焼きである」というニュースを見る限りだったので、印鑰さんが書いていらっしゃる記事を見て真相を知り、非常に驚きました。まったく知識がなく、自分を責めています。

神保 最初に結論からうかがおうと思いますが、まずなぜ、ここにきてアマゾンでこれほど火災が起きているのでしょうか?

印鑰 要因は複合的なものですが、ひと言でいうと、牛の牧草地を広げるためで、それが8割です。ただし、牧草地をアマゾンの奥に押し込んでいるのは、申し上げたように、実は大豆であるということです。

神保 いずれにしても、自然発火したものではなく、人為的に焼いているという理解でいいでしょうか?

印鑰 そうですね。もともと先住民族は、自然発火の延焼が広がることを防ぐため、あえて森に火をつけて引火を防ぐ、ということはしていますが、これはコントロールされていて、今般のように衛星から見てもわかるような大火事にはなりません。今起こっているのは8割方、放牧業者が組織的に火をつけているものだと考えられます。

神保 ジャングルを燃やして木をなくせば、放牧ができると。

宮台 印鑰さんの書かれたものを読んで驚いたのが、法規制によって原生林には手がつけられないが、一度焼けてしまえばそれは原生林ではなくなるので、自由自在に使えるようになると。とんでもないアイデアですね。

印鑰 環境省にIBAMAという環境を守る組織があり、本来なら誰が火をつけたか捜査できる権限があるのですが、予算が切られてしまっています。

神保 政府が開発を後押ししているために、歯止めが利かなくなっているんですね。データを見ると、火災の発生件数は17年、18年と少し減ってきたところが、19年になって増加に転じています。ただ件数が激増しているというより、面積や規模が非常に大きくなっているようですね。

印鑰 歴史を追ってみると、04年にひとつのピークがありました。それは、非合法化で遺伝子組み換え大豆の耕作が非常に増え、03年にブラジルで部分合法化が行われたからです。そうして大豆の耕作面積が急増し、その圧迫を受けて、アマゾンが危険にさらされたのが、04年だったということです。

 しかし、この破壊に対して非常に多くの懸念が表明され、特に環境団体や先住民族の人権問題を扱うグループが頑張り、「森林伐採で育てた大豆は買ってはいけない」というキャンペーンを行いました。マクドナルドなどの大企業もこれに応じて、森林の破壊はグッと下がり、歴史的に見てもかなり低い数字になっていったんです。

神保 それがなぜ、再び増加に転じてしまったのでしょうか?

印鑰 16年に労働者党政権が倒れてから、少し風向きが変わってきました。そして、今年に入ってジャイール・ボルソナロ大統領が政権に就いたところで、急激に破壊が加速したんです。だいたい、昨年の倍以上の数字になるだろうと考えられます。

神保 日本の環境大臣は、国連の気候行動サミットでニューヨークに行って、ステーキを食べてご満悦でしたが、牛の放牧がこの話に直結していると考えると、あれは最悪のタイミングでしたね。

印鑰 世界からひんしゅくを買ったと思います。

日本と深い関係を持つアマゾン開発の歴史

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