【神保哲生×宮台真司×山田敏弘】アメリカに依存する日本の“世界サイバー戦争”対策

――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)

[今月のゲスト]
山田敏弘[国際ジャーナリスト]

――今年6月、イランがアメリカの無人偵察機を撃ち落としたことが大きなニュースになったが、実はアメリカはその報復として、イランにサイバー攻撃を仕掛け、イラン軍のコンピュータ・システムを無力化したと報じられた。こうした中、世界サイバー戦争の最前線に明るい山田敏弘氏は、日本の現状について警鐘を鳴らす――。

神保 今回は「サイバー戦争」をテーマに議論したいと思います。今夏、アメリカに行った際、さまざまなメディアでサイバー攻撃の話題が出ていました。例えば、イランでアメリカの無人機が撃ち落とされた後、日本ではあまり知られていませんが、アメリカは報復としてイラン軍を大混乱に陥れるようなサイバー攻撃を仕かけていたそうです。

宮台 この番組でも、米トランプ大統領誕生の立役者がロシアのハッキングだった、ということを何度か話題にしてきていますが、まさにそのことを帯に書いて本を出された方が、今回のゲストですね。

神保 さっそく紹介しましょう。ゲストは国際ジャーナリストの山田敏弘さんです。今回参考にさせていただいたのが、山田さんが書かれた『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)です。2年前に書かれた本ですが、当時すでに、アメリカはマルウェアでイランの核施設を攻撃し、中国は米メディアから情報を盗み出すなど、国家間のサイバー攻撃合戦は始まっていたと。その後の2年で大きく変わったことはありますか?

山田 当時から変わったのは、「危ない」「すごい技術だ」と思われていたものが当たり前になり、さらにレベルが上がっていることです。今は国自体が「サイバー攻撃をする」と宣言し始めています。

神保 山田さんはサイバー兵器も核兵器のように、抑止力になる時代になったと書かれています。今や大国間では、お互いに仮想敵国のネットワークに深々と入り込み、マルウェアを仕込んだ上で、何かあればいつでも稼働できる状態になっている、という認識でいいのでしょうか?

山田 完全にその認識でいいと思います。

宮台 この本を読んですぐに思ったのが、Amazonで買っているUSBメモリについて、新品でも何か仕込まれている可能性があるのではないかということです。新しいタイプのウイルスが製品に仕込まれていても我々にはわからないし、この本を読むと、それが決して難しいことではないと理解できます。

神保 会社ぐるみでなくても、例えばスパイが会社に入り込んで、密かにそういうものを忍ばせることは十分に可能かもしれません。これは考えすぎなのでしょうか?

山田 いえ、可能性としてはあります。例えば、アメリカのメーカーのものでも、監視対象が購入したと察知して、サプライチェーンで自宅に製品が届けられる前に一度止めて、開封して仕込む――というようなことを、NSA(国家安全保障局)は写真付きで文書にして、局員たちに指導していた。

神保 デリバリーの途中で荷物をインターセプトしてマルウェアを仕込むなんてことまでするわけですね。

 さて、ここで最近の国家間のサイバー攻撃について、主だったものをまとめてみました。1998年にはインドネシアを中国人ハッカーと推定される人物が攻撃したという報告があり、2007年にはエストニアをロシアが攻撃したことで、3週間にわたってエストニアの政府機関や銀行が機能停止に陥っています。同年にはアメリカが、イラクでアルカイダ系のネットワークに潜入し、幹部の所在を割り出して殺害に成功しました。08年にはロシアがアメリカから、中東の米軍基地の機密情報を引き出し、またジョージア(グルジア)に対しては政府機関のサイトと重要インフラをアクセス不能に陥れる攻撃を実施しています。09年にはアメリカとイスラエルがイランを攻撃し、核燃料施設の遠心分離機を制御不能にして、濃縮作業を停止させたほか、北朝鮮は韓国のATMを使用不能にする攻撃を実行しています。10年にはグルジアに出どころ不明の攻撃があり、政府機関などのパソコンからNATOに関する文書が盗み取られました。また12年にはイランがサウジアラビアを攻撃し、石油会社のコンピュータの4分の3に及ぶデータを消去。15年にはイスラム過激派組織と推定される犯人が、フランスの通信インフラを攻撃したために、テレビ局の放送が一時中断。同年にウクライナで22万5000世帯が停電、また翌16年にキエフ市内の5分の1の電力供給がストップしたのも、ロシアの攻撃によるものだったとみられています。そして、その年には同じくロシアの攻撃により、米民主党全国委員会の1万9000通以上のメールが盗まれ、ウイキリークスで暴露されました。直近では今年、ベネズエラの水力発電所が止まり、全土で停電が起きた背後にアメリカのサイバー攻撃があったことが疑われています。

宮台 「情報を盗む」という次元ではなくて、全体的にインフラを制御不能にするというところにシフトしていますね。

神保 09年のイランの核燃料施設に対するサイバー攻撃では、遠心分離機が勝手に規定のスピードより速く動きだし、最終的に壊れてしまったそうです。

宮台 しかも爆発するところまではいかないように、リミットを設けていた。

山田 爆発までいくと、国際法上「武力行使」という話にかかわってきますから。サイバー攻撃が戦争行為になるという前例は作らない、という判断だったと分析されています。

宮台 中国がこのリストに大きく出ていないのが不気味ですね。中国は5G特許ですでにアメリカの倍の件数を保有しており、高い技術を持っています。

山田 サイバー攻撃には、経済的な目的と軍事的な安全保障の問題という、大きく2つの方向がありますが、中国では知的財産を盗むことが第一命題になっています。彼らも各国のインフラに入り込んでいるとは言われていますが、破壊攻撃はやらない。国の政策と同じでじっくり戦うので、なかなか表に出づらいんです。

日本でハッキング被害の報告が少ない理由とは?

今すぐ会員登録はこちらから

人気記事ランキング

2024.11.21 UP DATE

無料記事

もっと読む