――十数年前、練マザファッカーのボスとしてダウンタウンのバラエティ番組『リンカーン』(TBS系)に出演し、“ディスる”という言葉を一般化させたラッパー、D.O。2018年初夏、大麻とコカインの所持・使用容疑で逮捕されたと報じられたが、実は今秋より服役することになっている。そして、このタイミングでなんと自伝『悪党の詩』(彩図社)を出版した。何かと“自粛”を求められる今、これは前代未聞である。収監直前の本人を、ベストセラー『ルポ 川崎』(小社刊)で知られる音楽ライターの磯部涼氏が直撃した。
(写真/岡崎果歩)
東京都練馬区・石神井公園内にある茶屋、豊島屋は大正時代より営業を続けているという。昼間からここでおでんをつまみにビールを飲みつつ、100年前もたいして変わらないだろう景色を眺めていると、果たして今がいつなのかわからなくなってくる。しかし、前に座っているD.Oにとっては貴重な時間なのだ。しっかりと話を聞かなくてはならない。公園最寄りの西武鉄道池袋線・石神井公園駅の隣にあたる大泉学園駅がフッド(地元)の彼は、子どもの頃からここに足を運び、今は自分の子どもと頻繁に訪れているそうだ。一方で、家族を愛する良き父は日本を代表するギャングスタ・ラッパーであり、現在、大麻取締法、麻薬及び向精神薬取締法違反によって懲役3年の収監直前である。また、彼はこのタイミングで自伝『悪党の詩』(彩図社)を刊行した。彼が歩んできた紆余曲折は同書に詳しいが、自身で解説する口調は明るかった。それはD.Oの人生が、ほかでもないこの国の未来を切り開いていく確信があるからだろう。“悪党”、大いに語る。
逮捕されたことが親孝行の機会になった
9月末に発売されたD.Oの自伝『悪党の詩』は、すでに3刷。幼少期~今の驚くべき逸話が満載。
――“自伝”というものは人生の何かしらの節目で出すものだと思うのですが、今D.Oさんが置かれている状況はある意味では節目だし、ある意味では渦中だし……。
「なんて言うか……恵まれてるんですかね(笑)」
――ラッパーの自伝を出すタイミングとしてはバッチリだと。
「そうなんですよ。あと、この本の最後のほうに母親ががんで闘病しているという話を書きましたけど、8月に逝きまして。おふくろには『3年いなくなるけど、ちょっと待っててよ』って伝えていたものの、余命宣告もされていたし、正直、難しいかなと思っていました。それが収監前に看取ることができたんです」
――そうだったんですね……。お悔やみ申し上げます。
「だから、期せずして追悼本にもなったわけで、本当に運命的なタイミングで出たなと」
――では、そもそものところから伺います。制作には3年以上かかっているということですが、自伝を出そうと考えたのはなぜだったのでしょうか?
「そこはやっぱり、漢(a.k.a. GAMI/ラッパーで、D.Oが所属するレーベル〈9SARI GROUP〉のオーナー)の影響が強いと思うんですよね」
――漢さんの自伝『ヒップホップ・ドリーム』(河出書房新社)は2015年6月の刊行以来、ロングセラーとなっていますよね。
「漢から『D.Oもやってみなよ』みたいに勧められたことが、実際に制作に入るきっかけになっているんですけど、その前からやってみたかったし、『オレならこうしたい』『ああしたい』というアイデアもあって」
――『悪党の詩』では、もともと「僕がメイクしてきたヒップホップと漢がやってきたヒップホップは別物だと認識していた」と書かれています。それが、14年に〈9SARI GROUP〉に所属することになるわけですが、“自伝”というフォーマットにしても漢さんとはまた違ったアプローチをしようと考えた?
「もちろん、『ヒップホップ・ドリーム』はお手本にさせてもらいました。でも、やっぱり違いはある。僕は漢に“フリースタイルのチャンピオン”というイメージを持っていて。自然体でヒップホップをメイクしていくスタイルですね。一方、僕は時間をかけてつくり込んでいくスタイル。当然、違うから面白いし、だからこそ2人並んだときに映えるっていう。その違いを本でもちゃんと表現できた自負はありますね」