昔話が図書館から消える!『美女と野獣』は性差別的な物語!? ポリコレ的にNGな童話の世界

――『赤ずきん』、『シンデレラ』、『いばら姫(眠れる森の美女)』……誰もが知っている定番の童話に、ポリティカル・コレクトネスの波が迫っている。4月18日付の「The Guardian」紙の報道によると、このほどスペイン・バルセロナにある複数の学校で、「ジェンダーに関する固定観念や、差別的な要素が含まれる本」を図書室から排除する動きが進んでいるという。

『赤ずきん (せかいめいさくアニメえほん) 』(河出書房新社)

 ある学校では、委任を受けた調査団体が幼児向けの蔵書約600冊を精査。登場人物の発言内容と役回りを1冊ずつ調べ上げた結果、約200冊について「教育的な価値がない」との判断を下した。海外ニュースサイト「The Local」のスペイン版によると、その中には『赤ずきん』、『シンデレラ』、『いばら姫』、『美女と野獣』といった、メジャーなタイトルも含まれている。こうした童話で描かれる女性は「勇者である男性の救助を待っている存在」として描かれることが多く、それが男女のステレオタイプを助長してしまうと問題視されているようだ。

「幼児は身の回りに起こることすべてを吸収します。そのため、この時期に性差別的な固定観念に触れると、それを当たり前のものとして受け取ってしまう」というのが、調査団体の主張。しかし、その一方で前出の「The Local」が取材したある図書館職員は「古典文学には独自の価値があり、検閲は危険な行為。行き過ぎたポリティカル・コレクトネスは、守るべきフェミニズムの価値観をかえって傷つけかねない」と、警告している。

 本稿では、このようにポリティカル・コレクトネスで排除されていく童話の現状を、識者の意見を交えながら明らかにしていきたい。

スペインの判断は童話を理解していない

 まず、今回スペインで下された判断について、グリム童話の専門家はどのように考えているのだろうか? 梅花女子大学大学院教授・武庫川女子大学名誉教授・日本ジェンダー学会会長の野口芳子氏はこう語る。

「スペインでの出来事については、『何を考えているんだ!』という思いです。確かに、ジェンダーは時代や社会によって変わるもので、求められる『男らしさ』と『女らしさ』も変わっていきます。だからといって、過去のジェンダー観が反映されている物語や昔話を排除すると、ジェンダーを歴史的に理解する機会を子どもから奪うことになります」

 過去を否定するのではなく、理解することが重要ということだが、そもそもジェンダーに限らず、童話や昔話というものは常に身近な教訓の教科書でもあった。野口氏は『赤ずきん』を例に挙げ、次のように解説する。

今すぐ会員登録はこちらから

人気記事ランキング

2024.11.21 UP DATE

無料記事

もっと読む