中国のイーコマース企業が作った「完全無人倉庫」の内情

――あまりにも速すぎるデジタルテクノロジーの進化に、社会や法律、倫理が追いつかない現代。世界最大の人口14億人を抱える中国では、国家と個人のデータが結びつき、歴史に類を見ないデジタルトランスフォーメーションが進行している。果たしてそこは、ハイテクの楽園か、それともディストピアなのか――。

京東商城

中国版アマゾンと呼ばれる、巨大なイーコマース企業。通称ジンドン(JD.com)。1998年に設立され、現在は売上高6兆円を超えるまでに成長した原動力が、最先端のロボットやテクノロジーを使った「スマート物流」。2017年に発表した上海にある完全無人倉庫は、人の手にほぼ触れることなく商品を出荷できることで話題になった。最近では次世代物流のため、リニアモーター技術などにも投資をしている。

 中国といえば、今や世界でもっとも先進的な「キャッシュレス社会」として知られるようになった。しかし、これからは最先端のテクノロジーを駆使した「スマート物流」が間違いなくホットな分野になる。だから最近、中国の物流倉庫を取材している。

「世界で初めてとなる、完全無人倉庫が完成した」

 2017年、中国のイーコマースのトップ企業であるJD.com(京東商城/ジンドン)が、上海エリアにおいて「完全自動化」を施した巨大倉庫の建設を発表した。1日あたり20万個近いアイテムをさばくことができる、フラッグシップとなる物流拠点だ。

 このニュースを報じた米CNBCによれば、倉庫の広さは約4万平方メートル。本来ならば400~500人ほどの作業スタッフが必要となるスケールの倉庫だが、ここにはたったの5人しか必要ないという。つまり必要な人手は、およそ100分の1ということだ。

 JD.comが公開した無人倉庫の動画には、真っ白いロボットアームが登場する。まるで生き物のように、滑らかな動きでスマートフォンの箱を掴み取って、バーコードをスキャンさせて、ベルトコンベアの上に次々と置いていく。

 ちなみに合計20個備えつけられているロボットアームは、三菱電機製。さらにこのロボットの腕をコントロールしている「頭脳」にあたる人工知能は、日本のMUJIN(ムジン)という気鋭のロボットベンチャーが担当している。

「無人倉庫は、そもそもコストパフォーマンスを度外視して作った設備。だから、あらゆる商品を無人倉庫で配送できるわけではないんですよ」

 この倉庫について詳しい関係者は、そのように明かす。まずはお金のことは考えずに、最先端のテクノロジーをかき集めたということだ。実際にこの無人倉庫で扱っているアイテムは、今は四角い箱に入っているスマートフォンに限られている。

 つまりハイテクをアピールするために作った、やや「盛り気味」な完全無人倉庫ともいえる。それでも日本の物流倉庫では絶対に見ることができない、SFの世界だ。

 ロボットアームからベルトコンベアに荷物が流れてゆき、巨大な立体倉庫に在庫として収納されてゆく。そして注文があれば、まるで昆虫のように床の上をチョロチョロと動き回るロボットが、商品を配送エリアに運んでゆく。

 もはやこの物流倉庫は、室内の明かりをすべて消しても、暗闇の中で動き続ける――。メディアでは、そんな「都市伝説」まで紹介された始末だ。

日本は「スマート物流」の輸入国

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