【薔薇族回顧譚】「薔薇族」万引きで自殺――伊藤文學の忘れられない事件

――日本初のゲイ雑誌「薔薇族」創刊編集長が見た、ゲイメディアの勃興とその足跡をたどる

 過去6回にわたり、日本におけるゲイ雑誌の興隆を駆け足で追ってきた。しかしここで改めて時間を巻き戻し、「薔薇族」編集長として伊藤が体験した、いくつかの重要な出来事にフォーカスしていきたい。

「薔薇族」を刊行し続けた中で、最も忘れられない出来事は何か。そう伊藤に尋ねると、すぐにこのような答えが返ってきた。

「『薔薇族』を書店で万引きしようとして捕まった男の子が、飛び降り自殺をしてしまった事件だね」

 それは1983年のことだった。

 当時宮崎県宮崎市にあった7階建てデパート3Fの書店で、高校生の少年が万引きをしようとし、店員に見とがめられ捕まった。少年は、名前や住所を聞かれると、おとなしく答えて謝罪。電話で両親に、引き取りに来てくれるよう連絡もした。

 事件が起こったのはその後だ。少年は警備員に「トイレに行かせてください」と言って場を離れると、そのままビルの屋上から身を投げ、間もなく死亡したのである。

 そして、彼が書店からこっそり持ち帰ろうとしていた商品こそ、ほかならぬ「薔薇族」だった。

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2024.11.22 UP DATE

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