――日本のヒップホップ・シーンのみならず、音楽業界を背負って立つほどの存在とまでなったAK-69。新作『THE ANTHEM』を引っ提げ、久方ぶりに本誌に登場。国内ヒップホップ・シーンでは前人未踏となる武道館2デイズ公演についても、その本心を包み隠さず語ってくれた。
(写真/渡部幸和)
前作『DAWN』から2年半ぶりとなるアルバム『THE ANTHEM』を2月末にリリースしたばかりのAK-69。日本のヒップホップ・シーンの中で、ある種の頂点を極めた、いわば文句なしの成功者だ。本誌発売後の3月末には初の武道館2日連続公演を控えるなど、まだ見たことのない景色を求め、飽くなき挑戦を続けている。そんな彼のインタビューは、国内のラッパーとしては間違いなく初であろう、正式にスポンサードされたという愛車ジャガーの話からスタートした。
――今回撮影で用意してもらった愛車ですが、ジャガーからの無償提供とのことで。
「ジャガーのXJRというセダンなんですけど、スポーツタイプの最上グレードです。最初に提供してもらったのは3年くらい前で、そのときはFタイプのSVRクーペで、2台目はコンバーチブルに乗りたくなったので変えてもらいまして。自分で高級車を買えるようになっただけでも大きな成長ですけど、提供していただけるのは光栄なことですね」
――ほかにもベントレーを所有していたり、イギリス車が多い印象です。
「ロールスロイスに乗っていた時期もあって、別に狙ったわけでもなく、行き着くところが英国車だったんですよね。そもそもイギリス車のラグジュアリーさと気品があるところが気に入っていて……と、別に自分に気品があると言いたいわけじゃないですけどね(笑)」
――前回の本誌でのインタビューが約3年前で、自身の事務所/レーベル〈Flying B Entertainment〉を設立したタイミングでもありましたが、この3年間で変化はありましたか?
「Flying Bを立ち上げたのは、再起を図る意味合いもあったんです。それまでは勢いだけで走ってきたけど、それがずっと続くかどうか不安もあって、でも、そこであきらめて守りに入りたくないなと思ってFlying Bを立ち上げたんです。そしてアルバム『DAWN』を作って、無理と言われた武道館公演を成功させることができた。(配信)シングル『Brave』では、憧れのアーティストのToshlさん(X JAPAN)とコラボすることもできた。リアルな音楽を追求していけば、流行や一過性じゃないものが形にできるんだっていう思いが、根拠のない自信から確信に変わった3年だったと思いますね」
――さて新作となる『THE ANTHEM』ですが、このタイトルおよびテーマにしたこととは?
「『AK-69の音楽はなんだ?』って自問自答すると、やっぱり闘っている人へのアンセム(賛歌)だと思うんです。そこがAK-69というアーティストの真髄なのかなって」
――自分に対するアンセムという意味も?
「もちろん。正直、“人のために曲を書こう”という意思は、そんなにないんですよ。『がんばって闘っている人たちに向けて作りました!』とか、おこがましいですから。世の中には安い応援歌がたくさんあるけど、俺は人生を生きていく上で思ったことや感じたこと、それに葛藤して自身を奮い立たせるために歌っている。それが自然と同じような境遇の人たちに響いているんじゃないかなって」
――今回のアルバムの中で、特に核となる曲は?
「タイトル曲の『THE ANTHEM』と『Divine Wind -KAMIKAZE-』の2曲かな。それと清水翔太と一緒に曲を作った『Lonely Lion』も印象深いですね」
――「Lonely Lion」は“孤高”がテーマにありますが、自分の中にそういう感覚はありますか?
「アーティスト自体、そういうものじゃないですかね。ヒップホップは仲間と群れているイメージがあるけど、それはみんな孤独だからだと思うんですよ。もちろん、アーティスト以外でも自分が先頭に立って気を張っている奴らは、みんな孤独だったりする。翔太はコワモテでもないし、ハードなイメージがあるわけじゃないですけど、彼もR&Bというフィールドで闘っている。だからこそ、翔太とこの曲が作れたのかなって思いますね」
――今回のアルバムにおける新たなトライは?
「若手ラッパーのフックアップですね。『MINAHADAKA』という曲でLui Hua、OZworld、Hideyoshiの若手3人を起用して。彼らは俺のアパレルライン(BAGARCH)の先シーズンのモデルを務めてくれた3人でもあるんですよ。せっかく音楽をやっている人間がこうやって集まったんだから、曲も作りたいなと。どんなアーティストでも一緒に曲を作るとそうですけど、彼らからもかなり刺激をもらいましたね」
――今の若い世代のシーンは、どう見てますか?
「いろんなタイプのラッパーがいて面白いなと思いますけど、まだまだ日本のヒップホップ・シーンが小さいので、オナニーになりがちな印象もありますよね。ヒップホップの狭いコミュニティの中だけで“イケてる”って言われて満足してしまってる子たちも多いじゃないですか。昔から言われ続けていることだけど、やっぱりお茶の間に飛び出ていけるようなメンツがもっと出てきてほしいなと思いますよ」
(写真/渡部幸和)
――最近ではアメリカでアジアのヒップホップが受け入れられるようになったり、アジア諸国のヒップホップ自体も盛り上がっていますが、そういう状況はどう感じていますか?
「日本はアジアの中でも最先端を走っていたはずなのに、特に音楽シーンにおいてはすごい遅れてますよね。中国や韓国、タイなんかではゴールデンにヒップホップの番組を放送していて、国民を巻き込んで盛り上がっているのに、日本は『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)止まり。もちろん、昔と比べたら話題になるだけでも素晴らしいと思うけど、ヒップホップはフリースタイルだけじゃないですからね」
――間もなく3度目となる武道館公演が控えていますが、これまでとは気持ちも違いますか?
「今回は初の2デイズなので、初めてパフォーマンスするときと同じような気持ちですね。1日だけだったら気合で乗り越えられそうだけど、2日連続で、かつ両日とも内容を変えるんですよ。おのずと曲数も倍になるし、技術的にも体力的にも……構想を練るのもマジで大変な状態です。ちょうど昨日もミーティングだったんですけど、『なんで2デイズにしたんだろう』って思いながら打ち合わせしてました(笑)」
――それでも、やはり成功する自信はあるわけですね。
「大袈裟に聞こえるかもしれないけど、本当に命がけです。でも、これだけ気合の入っているアーティストとスタッフで臨めるのは幸せとも思える。武道館公演の日程についてミーティングしたとき、『AKさん、ワンデイだったら今までと変わりませんからね』って、スタッフが挑発してきたくらいですから。だから俺も言ったんですよ、『お前ら、命がけで行くぞ! これで潰れても文句言わせねえからな!』って(笑)」
――ソロデビューしてから今年で15年ですが、自分の中で変わらないものは何でしょうか?
「自分の目標に向かい自分自身と闘っていることは、昔から変わらない。『AKは成功者だ』とか『遠いところに行ってしまった』とか、良い意味でも悪い意味でも思っている同業者やファンがいるかもしれないけど、当の本人は全然そんなこと思ってない。いまだに現状には全然満足していないし、不安や悩みだってたくさんありますよ。今でも2デイズのことを考えるとキンタマがふわふわしてきますから(笑)。いつだって思ってます、挑戦することをあきらめた時点で終わりだ、ってね」
(取材・文/大前至)
(写真/渡部幸和)
AK-69(エーケー・シックスティナイン)
1978年、愛知県生まれ。あえてインディーズでの活動にこだわり、これまでに発表してきた作品はメジャー作品をしのぐ売り上げをたたき出している。16年には〈Def Jam Recordings〉と契約を交わし、メジャーデビューを果たす。プロ野球選手の登場曲をはじめ、ボクシング選手や格闘家、体操選手など、あらゆる“闘う”分野のアスリートたちからも大きな支持を集めている。
(Flying B/Def Jam Recordings)3024円
AK-69『THE ANTHEM』(通常盤)