――あまりにも速すぎるデジタルテクノロジーの進化に、社会や法律、倫理が追いつかない現代。世界最大の人口14億人を抱える中国では、国家と個人のデータが結びつき、歴史に類を見ないデジタルトランスフォーメーションが進行している。果たしてそこは、ハイテクの楽園か、それともディストピアなのか――。
ファーウェイ
1987年に中国の深セン市(広東省)で設立され、電話交換機の開発から始まり、世界トップの通信インフラメーカーに成長した。スマートフォンでアップルを抜いて世界2位の座につき、近年は年間1兆円以上をR&Dに投資しており、中国屈指の開発力をもつ。創業者の任正非がかつて人民解放軍で働いた経歴があるため、中国政府と蜜月なのではないかと、西側諸国から強い警戒の対象になってきた。社員の高待遇も有名で、日本における新卒社員(技術者)の初任給は40万円であることが波紋を呼んだ。
今や世界18万人の従業員を抱えている世界的なIT企業・ファーウェイ(華為技術)は、売上高にして10兆4000億円(2017年度)。すでに世界トップの通信機器メーカーであり、スマートフォン分野でもアップルを超えて、世界ナンバー2のシェアを占めている。
1月18日、中国のシリコンバレーと呼ばれる深セン市(広東省)。そこに本社を構えるファーウェイのキャンパスで、これまではあり得なかった光景が広がっていた。
そのファーウェイの創業者である任正非(レン・ジェンフェイ)が、日本メディアなどの前に姿を現したのだ。これまでメディア取材はほとんど受けず、秘密のベールに包まれてきた人物だけに、世界中の注目を集めた。
まず「日本に最初に行ったのは、30年以上前のことになります。私はとても若くて、日本に深い感銘を受けました」と切り出した上で、中国でも歌い継がれている昭和のヒットソング「北国の春」(1977年、千昌夫)について語り始めたのだ。
「中国ではラブソングとして解釈されていますが、私はこれを奮闘する人に向けられた歌だと思っています。若者が故郷を離れて、家族と離れたところで奮闘している時に、一番心配しているのは母親です。日本も、中国もかつて非常に貧しい時代があったと思います。この歌はそういった勤勉な日本人の奮闘精神を歌っているのでしょう」
ファーウェイを創業した任は、かつて文化大革命を経験した世代であり、とても貧しい暮らしをしていたため、その気持ちがわかるのだという。
もちろん、この記者会見の本題は、彼の思い出話ではない。今世界では台頭する中国や中国企業による影響力を懸念する動きが広まっており、アメリカではそのやり玉のひとつとして、このファーウェイが挙げられている。
そして2018年12月1日には、ファーウェイの最高財務責任者(CFO)であり、実の娘でもある孟晩舟氏が、アメリカ当局の要請によってカナダで逮捕された。その理由は、「イランに対する輸出禁制品を取り引きした疑い」というものだった。
ファーウェイは世界にとって脅威である――。こうしたアメリカなどの見方に対して、ついに創業者の任みずからが、そうした懸念を払拭するために姿を現したのだ。