――さくらももこというマンガ家がこの世に残してくれたもの。子どもの残酷な世界をユーモラスに描いた「ちびまる子ちゃん」。あるがままに世界を見る重要性を説いた「コジコジ」、善も悪もすべてを肯定した「神のちから」。それらの作品から見えてくるのは東洋思想から受けた影響。そしてクラスで目立たない子に勇気を与えてきたという功績だった。
ちびまる子ちゃん 1(りぼんマスコットコミックス)
今年8月、乳がんにより53歳という若さでこの世を去ったさくらももこ。全国にその訃報が伝えられると、メディア上では日曜夕方放送の国民的アニメ「ちびまる子ちゃん」を改めて評する声が数多く上がった。そこで顕わになったのが世間の“見誤ったさくらももこ像”だった。中でも“わかってない”コメントが「理想的な家族像を描いていた」といった声だ。
「ちびまる子ちゃん」は時に「サザエさん」と同列で、日本の家族のあるべき姿を映したホームアニメとして語られがちだが、さくらももこは“家族愛”や“友情”といったものを作品の主題に据え置くほどお行儀のいいマンガ家ではない。むしろそれとは真逆。原作を読むほどに伝わってくるのは、独自の冷めた目線で切り取った残酷なまでの現実なのだ。本稿では本誌「オトメゴコロ乱読修行」の連載でおなじみの稲田豊史氏とともに、さくらももこのマンガ作品を再度読破。そこに共通する表現から彼女の独自の思想、そして功績を探っていく。