――あまりにも速すぎるデジタルテクノロジーの進化に、社会や法律、倫理が追いつかない現代。世界最大の人口14億人を抱える中国では、国家と個人のデータが結びつき、歴史に類を見ないデジタルトランスフォーメーションが進行している。果たしてそこは、ハイテクの楽園か、それともディストピアなのか――。
今月のテクノロジー『蜂鳥物流』
中国の出前サービス大手のウーラマが展開する、新しいオンデマンド物流のネットワーク。中国全土の676都市をカバーしており、スマホを片手に待機している67万人の電動バイクのライダーたちが注文に応じて走り、ラストワンマイルの配送を担っている。中国最大のイーコマース企業であるアリババが2018年春、こうした物流インフラを築いたウーラマを約1兆円で買収して大きな注目を集めた。
人口200万人以上の巨大都市が50以上もひしめく中国。その高い人口密度をほこる都市部で今、24時間365日、スマホひとつであらゆるものを配達してくれる、究極の「出前エコノミー」が浸透している。しかしその運び手たるライダーたちの日常は過酷だ。
「月餅の引換券をもらったけど、お店まで行って行列に並ぶのは大変だから、スマホの出前アプリで“パシった”のよ」
2018年9月下旬、連休を楽しむ人たちであふれていた中国・上海。多くの中国人はこの中秋節の期間に、月に見立てた伝統的なお菓子である月餅を食べることで知られている。
しかし、上海で働くキャリアウーマンの張呈さんは、月餅を買いに行くことすら面倒でたまらない。なぜならアプリひとつで、あらゆるものを30分以内に届けてくれる「究極の出前サービス」が中国では普及しているからだ。