成宮寛貴の引退を事務所はなぜ止めなかったのか? 大手プロの危機管理術<芸能プロ近代史3>

『成宮寛貴10周年記念メモリアル本「Hiroki Narimiya Anniversary Book10」』(角川グループパブリッシング)

 芸能プロに利益を生むのは商品である所属タレント。とはいえ百貨店に売られているような商品とは違いモノ言えば、行動もするし、時には主人ともめる。それが最近、芸能界を賑わすタレントの独立騒動へと繋がっている。

 老舗大手プロ「ワタナベプロ」にもかつて独立騒動はあった。森進一、小柳ルミ子らが独立していったが、「独立した場合、暗黙のうちに1年は圧力で仕事を干される規律が自然と生まれた」(芸能関係者)という。独立騒動にも大手プロは慌てることはない。去る者がいれば代わりを補充するのが大手プロの手腕。

 芸能界には「いつまでもあると思うな、人気と仕事」という言葉があるように、どんなに人気があってもちょっとしたきっかけで瞬く間に人気も仕事もなくなる。大手プロは常に次なるタレントをスタンバイさせている。男性アイドル王国「ジャニーズ事務所」はトップを走るグループがいても、常にジュニアを用意してタイミングよく表舞台に出し、自然に世代交代を行い、アイドルが絶えることなく続く。これが芸能プロ経営のノウハウでもある。ナベプロにも顕著な例がある。ナベプロの系列事務所にはイケメン俳優として人気のあった成宮寛貴(35)が在籍していた。将来のドラマ界を背負って立つ逸材とも言われていたが、2年前に突然、薬物疑惑が報じられた。しかも、ゲイ疑惑報道までされ、一気にイメージダウンに追い込まれた。しかし、すべては疑惑。本人から事務所が聞き取りを行った結果、「薬物使用を裏付ける決定的な事実は確認できなかった」と疑惑を全否定。一件落着と思われたが、成宮は「これ以上、自分のプライバシーが人の悪意により世間に晒されることは耐えられない」と芸能界からの引退を発表した。

「事務所も薬物疑惑に困惑していた。本人に聞いて“やっています”という人はいない。疑惑のある俳優を抱えているということは、“万が一”のリスクがある。売れっ子の成宮でしたが、事務所も引退を止めることはしなかった」(テレビ関係者)

 北川景子や柴咲コウらが所属する「スターダスト」でも似たようなケースがあった。沢尻エリカ(32)の解雇事件である。女優を育てることで定評のあるスターダストは沢尻を映画「パッチギ」で一躍スターにさせたが、「別に」に発言で失速。さらに実業家と電撃結婚。スペイン暮らしをするなど奔放ぶりは語り草になっているほどだ。

「スターダストは他の事務所と違い自由な社風で、恋愛についても寛大。恋愛禁止を謳っている事務所とは雲泥の差。しかし、沢尻にはそれが裏目に出てしまった」と芸能関係者が沢尻事務所解雇の背景を振り返る。

「当時、酒井法子が覚醒剤使用で夫と共に逮捕され、“次は誰か“という話がしきりにメディアで流れ、沢尻の名前が取り沙汰された。恋愛は自由でも犯罪などに関してはうるさい。沢尻に問いただし、薬物検査を受けるように話したが、沢尻はこれを拒否したと聞きます。それで事務所幹部は解雇を決めた。結果的にはなにもなかったわけですが、危機管理のためには売れている女優でも手放す。それが大手プロです」

 芸能界は椅子取りゲーム。空きが出れば、その席は取り合いになる。くだんの成宮枠が空いたことはライバルにとっては逆に朗報だった。イケメン俳優を売り込みにかかるが、それを大手プロが黙って見ているはずもない。すでにナベプログループ内で売り出し中だった菅田将輝、松坂桃李といったイケメン俳優をさらに力を入れドラマなどに起用した。最近はさらなる秘密兵器まで現れた。今年、朝ドラ「半分、青い」にゲイの青年役で出演。茶の間の話題をさらった美青年俳優の志尊淳(23)。あまり馴染みがないかもしれないが、志尊は14年に戦隊もので俳優デビュー。イケメン俳優として子供と一緒に戦隊シリーズを見ていた母親たちの間ではすでに注目されていた。その母親ファンを引き連れて朝ドラへ移行。これぞ現代のイケメン俳優を売り出す王道。これができるのも大手プロの実力と長年築いたテレビ局との信頼関係である。

 朝ドラ人気で人気急上昇した志尊。今秋公開の映画ではいきなり主演。ビジュアル的にも成宮を彷彿とさせる雰囲気から「ポスト成宮」の呼び声も高い。成宮引退の補填は完璧どころか、おつりが出るほど整っている。

 対照的に小さなプロダクションは売れっ子が独立するだけで、事務所の経営ががたつくこともある。必死に独立を食い止めた結果、事務所と俳優の間で揉める。時には裁判沙汰になることすらある。それが大手プロとの格差となっている。大手プロは常に危機管理対策まで万全なのである。

(敬称略)

二田一比古
1949年生まれ。女性誌・写真誌・男性誌など専属記者を歴任。芸能を中心に40年に渡る記者生活。現在もフリーの芸能ジャーナリストとしてテレビ、週刊誌、新聞で「現場主義」を貫き日々のニュースを追う。

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