なぜ巨大なケツを振るのか?――ヒップホップと尻の妖しき関係を科学する!

――ラッパーのミュージック・ビデオで金、ウィード(大麻)、銃と並んで頻出するのが、女の尻である。ヒップホップとそれが分かちがたい関係にある理由とは――。近年の“尻アイコン”となっている人物も挙げながら、このカルチャーにおけるケツの意義を考察したい。

モデル/左:RIMI、右:EMI(↑画像をクリックすると拡大します。)

 現在、アメリカのヒットチャートはラッパーに席巻されているように、グローバルな音楽シーンのメインストリームはヒップホップだと言って間違いない。そのヒップホップのミュージック・ビデオで頻繁に目にするものがある。それは、尻だ。

 言うまでもなく、尻は胸と並んで女性のセックスアピールにおいて重要な役割を担う部位であるが、ヒップホップにおいては尻が圧倒的な支持を得ている。曲名にも「booty」「butt」「ass」などいずれも尻を意味するワードが頻出し、現在もラッパーのニッキー・ミナージュやカニエ・ウェストの妻キム・カーダシアンといった巨尻の女性がシーンにおける尻アイコンとして崇め奉られてもいる。

 ただ、音楽評論家の小林雅明氏によれば、そもそも尻はヒップホップだけのものではなかったという。

「ヒップホップの誕生以前、1970年代のディスコ・ブームの際にも、例えばKC&ザ・サンシャイン・バンドの『(Shake, Shake, Shake)Shake Your Booty』という曲がありました。要するに、彼らにとってダンスとは尻を振ることであり、ブラック・ミュージックにおいて尻を重視する文化は脈々と続いてきたんです。しかし80年代までのアメリカでは、一般的な美的感覚としてスリムな女性が美しいと見られていた。少なくとも白人の間では間違いなくそうでした。そこへ一石を投じたのが、92年に黒人ラッパーのサー・ミックス・ア・ロットが発表した『Baby Got Back』でした」

 同曲のミュージック・ビデオでは、お立ち台で腰をくねらす黒人女性を見た2人の白人女性が、「ケツでかすぎ」「売春婦みたい」「キモい」と不快感を露わにする。それに対してサー・ミックス・ア・ロットが「俺はでかいケツが好きだ」と言い放ち、尻を模した巨大な山の上でラップを披露する。これは確かに、白人的美意識へのカウンターのようにも見える。

「彼は『Baby Got Back』について、雑誌『ヴォーグ』に載るような細身の女性のようになりたくて死ぬほどがんばっている女の子たちのことを歌ったと語っています。だから、ビデオは馬鹿げていますが、単に自分の好みを表明しているのではなく、無理して痩せる必要はないという意外(?)と真面目なメッセージも含んでいるんです」(小林氏)

 それが黒人女性を中心に支持されたのか、同曲は92年のビルボード年間チャートの2位になっている。

「このクラシックとも呼べる『Baby Got Back』を、ニッキー・ミナージュが2014年にリリースしたシングル『Anaconda』でサンプリングしました。女性の側からこの曲を解釈したことも象徴的です」(同)

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