――ミチコ・カクタニの難解な英語表現はハイブロウで読み応えがある「アート」としても捉えられ、取り上げられた本は読まなくても、カクタニの書評だけは読みたいというファンも生まれたほど。そんな、彼女の酷評と絶賛を「未翻訳ブックレビュー」運営者の植田かもめ氏に選んでもらった。
【1】日本を代表するハルキ・ムラカミにも容赦なし!
『The Wind-Up Bird Chronicle』
Haruki Murakami/Knopf(97年)
[書評抜粋]
「これは読者にとってピュロスの勝利だ」
“for readers it's a Pyrrhic victory”――(1997/10/31)
[植田氏解説]
『ねじまき鳥クロニクル』(新潮社)をカクタニ氏は「世界が摩訶不思議な場所であることを描くのには成功している」と前置きした上で、「だが、読者にとっては『ピュロスの勝利だ』」と切り捨てています。「ピュロスの勝利って何?」という感じですが、これは強い古代ローマに散々苦労して勝った将軍のことで、つまり「割に合わない」という意味合いの慣用句なんですね。さらに「現実は混沌としたものだというのを、ただそのまま表現しているだけ。芸術作品を作るんだったらそれ以上の何かを出さないといけないが、彼はそこまでいってない」と、バッサリです。
【2】無関係の映画監督にもとばっちり!
『Cosmopolis』
Don DeLillo/Scribner(03年)
[書評抜粋]
「ひどい失敗作であり、ヴィム・ヴェンダースのダメな映画と同じくらい陰鬱かつ強引で、『Interview』誌の古い号と同じくらい時代遅れである」
“a major dud, as lugubrious and heavy-handed as a bad Wim Wenders film, as dated as an old issue of Interview magazine”――(2003/3/24)
[植田氏解説]
『コズモポリス』(新潮社)はニューヨークの大富豪が、散髪にリムジンで出かけたところを暗殺者に狙われるという話なのですが、カクタニ氏はこの作品をまず「ひどい失敗作」と断定します。それだけならまだしも、「ヴィム・ヴェンダースの陰鬱な映画や、古い『インタビュー』誌くらいつまらない」と、ひとつの文で小説と映画と雑誌の3つをコンボでディスります。作品とまったく関係のないファンまで敵に回すかのように、いろんなものを巻き込んで書くのは彼女の得意技で、この「芸風」が好きかどうかでファンになれるかが分かれますね。