本で読み解くW杯! 巨大放映権料に電通、八百長…“サッカーとカネ”を暴く推薦図書はコレだ!

――急激な高騰の続くサッカー界の年俸や移籍金。イニエスタのヴィッセル神戸加入のビッグニュースでも、32億円と報じられた年俸に驚いた人も多いだろう。ビジネス的にも世界的なビッグイベントであるW杯も開催される今、日本人にも身近な話題となりつつある“サッカーとカネ”にまつわる書籍群を紹介する。

約290億円の移籍金でパリ・サンジェルマンに移籍したネイマール。

 昨年パリ・サンジェルマンFCに加入したネイマールの移籍金は約290億円。ヴィッセル神戸に移籍したイニエスタの年俸は約32億円――。小さな国家のGDPを軽く上回る金額を目にすると、サッカーがビジネスとしても巨大な存在であることがわかるだろう。W杯で盛り上がる最中、本稿では、そんな“サッカーとカネ”の裏側を描いた書籍を見ていこう。

 まずは、巨大なサッカービジネスの象徴である、ヨーロッパのビッグクラブについての書籍から。スポーツとしてのサッカーにとどまらず、多様な切り口のサッカーの記事・論説を掲載している「フットボール批評」編集長の村山伸氏は、自身の編集した近刊『億万長者サッカークラブ』【1】をまず挙げてくれた。

「アブラモヴィッチ(2003年にイングランドのチェルシーを買収したロシア人実業家)をはじめとした、ビッグクラブのオーナーが一体何者で、なぜサッカークラブに投資を行っているのかを描いた書籍です。大富豪の道楽と思っている人も多いかと思いますが、アブラモヴィッチを扱った章では、プーチンをはじめとした政治家の名前も登場しますし、不可解な死を遂げる人物も出てきます。アブラモヴィッチのチェルシー買収には、自らの存在を世界に知らしめることで、自分の身の安全を確保する狙いもあったんです」(村山氏)

 同書によると、アブラモヴィッチと訴訟合戦を繰り広げたエリツィン派の実業家は、ロンドンで死体となって発見。彼の周辺人物にも多くの死者が出ているという。そのような事実は、サッカーファンでも知らない人が大半のはずだ。

「また中国クラブによる(海外選手の)爆買いにも、サッカーファンである習近平国家主席が大きく関係しています。一方でメジャー・リーグサッカーのアメリカ人オーナーは、純粋にビジネスとして、サッカーに投資をしている。このようにオーナーの国や地域によって、クラブ経営の狙いが違うことがわかるのも本書の魅力だと思います。またビッグクラブを扱った最近の書籍では、『THE REAL MADRID WAY』【2】もおもしろい本でした。クラブ公認の本でありながら、財政面でのさまざまなデータも公開しており、レアルが借金まみれだった時代のことも書かれています」(同)

 一方で、巨大な資本がなくてもクラブ経営は可能で、チームが勝利を重ねれば上のカテゴリーのリーグへとステップアップできる……というのもサッカーの醍醐味だろう。そんな側面を描いた書籍として、サッカーについても多く執筆するコラムニストの小田嶋隆氏は『サッカーおくのほそ道』【3】を推薦する。

「J3やJFLといった下位カテゴリーのクラブを追いかけて、クラブ経営の裏側も丹念に取材している宇都宮徹壱氏ならではの書籍です。選手が自ら営業に出向いてお金を集めている話や、JFLのクラブが47歳の中山雅史を現役復帰させた背景なども描かれています」

 同書は、あえてJリーグ入りを目指さないHonda FCのような実業団クラブについても取材を敢行。「街のクラブがプロ化を目指す際の葛藤なども、リアルに描かれていた」と小田嶋氏。

「ひとつの街にひとつのサッカークラブがあり、7部や8部までリーグがあるサッカーが盛んな国々の状況に、日本も近づきつつある……と実感できる内容です。本書では、選手が街に出てお金を集めたり、チケットを売ったりする姿も描かれていますが、その様子は川淵三郎Jリーグ初代チェアマンが思い描いたJリーグの理想に近いものだと思います」(同)

 そんなJリーグも2015・2016年には「2ステージ制+ポストシーズン」を導入。ヨーロッパの四大リーグ等では見られない仕組みで、年間勝ち点1位のチーム=優勝ではなくなることから、「世界基準からかけ離れている」と非難の声が多く上がった。その導入の背景を描いた書籍として、フリーライターの清義明氏は『Jリーグ再建計画』【4】を挙げる。

『Jリーグ再建計画』【4】の編者の1人である、現Jリーグチェアマンの村井満。

「編者は2010~14年にJリーグチェアマンを務めた大東和美氏と、14年からチェアマンを務める村井満氏。2002年のワールドカップ前後をピークに、観客動員もメディア露出も下降線をたどっている中で、Jリーグが生き延びるための戦略を彼らが示しています」

 同書では2ステージ制+ポストシーズンについて「ベストな選択ではないのだが」と、Jリーグ側の素直な声も明かされている。一方で「野球のマネだ」と批判されがちだった同制度の導入について、「その批判は間違っている」と、清氏は続ける。

『サッカーで燃える国 野球で儲ける国』【5】に詳しく書かれていますが、ヨーロッパのサッカーとアメリカの野球は、互いにビジネスのアイデアを取り入れてきた歴史があります。そして過去へとさかのぼれば、サッカーの世界ではもともとカップ戦(トーナメント戦)しか行われておらず、リーグ戦の仕組みは野球から取り入れたものなんです」(同)

 野球におけるリーグ戦は、「年間にわたってコンスタントに試合を行うことで、スポーツをビジネスとして成り立たせる」という狙いのもと始まったものだそうだ。

「トーナメント戦の場合は、高校野球のように1回戦で負けたらもう試合は終わりですから、ビジネスにはしにくいですよね。それがリーグ戦になれば、一定の観客収入も確保できる。『年間にこれだけ試合を行います』という宣言をすることで、スポンサーも獲得しやすくなるわけです」(同)

 野球との比較で見えてくるものは多く、小田嶋氏も『高校野球の経済学』【6】という本を推薦してくれた。

「高校野球の強豪校は、部員以外からも部費の予算を取っており、それを元手にトレーニング施設などを整備しています。そして甲子園出場となれば、地元からも寄付が集まるんです。プロサッカーとは全然違いますが、おもしろい仕組みですよね」(小田嶋氏)

 なお近年は、野球のほうがJリーグの地域密着戦略を取り入れる……という逆転現象も起こっている。

「野球離れが深刻化する中で、仮想敵であったサッカーの組織体系やビジネスモデルを野球側が強く意識していることは『野球崩壊』【7】に描かれています。またプロ野球は、テレビ放映を前提とした広域マーケティングに偏りがちなビジネスも見直してきていますが、それもJリーグの影響でしょう」(前出・清氏)

巨額な放映権を支えるアジアの視聴者

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