日本とアジア各地の大衆文化の融合――異様な空気が高揚を促す奇祭

――21世紀型盆踊り・マツリの現在をあらゆる角度から紐解く!

内気な人間でも参加してしまったら、そのカオスな空気で高揚すること必至な「橋の下世界音楽祭」。自然の力と人間の欲望が交錯する空間だ。(写真/ケイコ・K・オオイシ)

「日本のバーニングマン」などとも呼ばれる奇祭が2012年から開催されていることをご存じだろうか。舞台は愛知県豊田市。橋の下に広がる広大なスペースを使った奇祭は、その名も「橋の下世界音楽祭」という。

 初めて会場に足を踏み入れた来場者は、まずその空間に息を呑む。そこには江戸時代からタイムスリップしてきたような横丁が広がり、会場の一角ではイノシシの丸焼きをしていたり、鍛冶屋が鉄を打っている。中央には巨大な櫓。竹や廃材を使用したステージにも日本風の意匠が施されており、こちらもまるで時代劇から抜け出してきたような迫力だ。出演するのは、橋の下世界音楽祭を主催する地元出身の和太鼓パンク・バンド〈TURTLE ISLAND〉を筆頭に、全身タトゥーのハードコア・バンド、モンゴルやインドネシアなどアジア各地から招聘されたバンド、阿波おどり団体や落語家、ラッパー、チンドン屋、ノイズ音楽家などなど。ライブ中に巨大な山車や葦船がフロアに突入してきたり、モヒカン頭のパンクスの横をちょんまげ姿の男が当たり前のように歩いていたりと、まさにカオスだ。

 そんな巨大な祭りがなんと入場無料であり、来場者の投げ銭や地元の仲間たちからの協賛金、ブース出店料などで毎年開催されているというから驚きだ。運営を担っているのは、TURTLE ISLANDを中心とした地元の人々と全国の有志たち。多くの野外フェスで見られる大手企業のブースなどは一切ない。筆者は縁があって1回目から参加させてもらっているが、年々来場者は増加。橋の下世界音楽祭に刺激を受ける形で新たな祭りが各地で立ち上がっており、その噂はアジア各地にも広がりつつあるようだ。

 この祭りの背景にあるのは、東日本大震災以降の日本文化再発見の気運だ。TURTLE ISLANDはもともとハードコア・パンクと日本の祝祭的要素を融合させ、イギリスの老舗野外フェス「グラストンベリー・フェスティバル」のメインステージに立つなど、海外でも高い評価を得てきた。近年メンバー自身が日本の民謡や古典芸能への関心を強める中で「自分たちの祭り」を始める必要性を感じ、橋の下世界音楽祭をスタートさせたという。そこには盆踊りや祭りへの憧憬があり、混乱した日本社会からの逃げ場ともなるアジール(自由領域、無縁所)を作り出そうという意識もあったのだろう。それはいわばパンク的なアナーキズムの発展型でもあって、その意味でも確かに橋の下世界音楽祭のスタンスはアメリカのバーニングマンとも共通している。

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