【板倉由実】裁判所で認定されやすいのはセクハラよりも肖像権侵害【論点2/法律】

――エロティックな女性ヌードなどで知られ、世界的な評価も高い写真家・荒木経惟。長年、彼のモデルを務めてきたKaoRiさんによる告発が、「#MeToo」のひとつとして世間をざわつかせた。ただ、この騒動をめぐる議論は錯綜している。そこで、本当に語るべき論点を整理し、問題の本質に迫りたい。

板倉由実(弁護士)

いたくら・ゆみ 東京パブリック法律事務所に所属。労働事件、家事事件、入管・在留資格、外国人事件、女性・ジェンダーにかんする問題などを多く取り扱う。共著に『会社で起きている事の7割は法律違反』(朝日新書)などがある。


「写真画報」(玄光社)2013年春号に掲載された作品「淫夢」。

 裸を撮影すること自体はKaoRiさんも同意していたようですが、告発文には「私は撮られるだけで、それがどのように使われて行くかは一切知らされていませんでした」とあり、彼女の同意なく写真集やDVDが世界中で販売されました。彼女には肖像権があり、自分の姿を撮られること、撮ったものを公開されることを自らコントロールする権利があります。「この写真をこの目的でここに掲載します」と事前に同意が取れていないのは違法。それは、美術館に展示しようが、商業媒体に載せようが、関係ありません。

 荒木さんには「芸術家の俺に撮られるのだから、うれしいはず」というおごりがあったのだと思います。ただし、KaoRiさん側にも「著名な写真家に見いだされてうれしい」という感情がまったくないかというと、少しはあったのかもしれません。それは恋愛感情とはまったく別のもので、「権力のある人に自分が選ばれた」というある種の優越感です。セクハラの案件にも往々にしてそういった面があります。荒木さんはその気持ちを利用して、きちんとした契約をせずに断れないように仕向けて、なし崩し的に過激な、彼女が想定していなかったような写真を撮らせたり、屈辱的な思いをさせたりしたのだと想像できます。

 これが恋人関係や夫婦関係であれば契約書は不要なのかというと、そんなことはありません。そのときは良好な関係だったとしても、後に悪化して法的なトラブルに発展するケースはたくさんあります。アメリカではそういうトラブルは“起きるもの”という前提で、細かく契約を結びます。しかし、日本において――特にこうした写真業界や出版業界などで慣習的になあなあになっている点は、大きな問題です。

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