見開きで並べられた2枚の写真がある。どちらも似たようなシチュエーション、被写体、構図で撮影されたものだが、何かが少しずつ違う。それもそのはず、片方は韓国で、もう片方は北朝鮮で撮影されたものだからだ。菱田雄介の写真集『border | korea』(リブロアルテ/2017年)は、朝鮮半島が南北に分断されてからの数十年という歳月が、そこに暮らす人々や風景に刻んだ差異を浮き上がらせようとしている。
学生たちのポートレイト、公園で憩う人々や交通整理の様子を撮影したスナップショット、街の喧騒や高層住宅群の風景写真……。とりわけ珍しい被写体が選ばれているわけではないが、2枚の写真のコントラストに目を奪われる。北朝鮮と韓国で撮影された写真の違いを、いくつか挙げてみよう。前者に写っている人々の服装は一昔前のもののように見えるが、後者はそれよりも現代的だ。ピョンヤンで撮影されたものには、金日成・金正日らの肖像や反米プロパガンダ、朝鮮労働党の標章などが散見されるのに対して、ソウルでの写真には、アメリカ文化の影響が見てとれるものや日本との近親性を感じさせるものも多い。また、古い建築物を背景に撮影された写真は、同じ国で撮られたようにも見える。南北朝鮮の相似点と相違点とが際立つような背景や被写体が取捨選択されているので、我々はそうした細部を探索するため、写真の上に視線を滑らせればいい。