週刊誌の新たなシノギ「直撃動画」
スクープがウリの週刊誌だが、ここに来て、スキャンダルや疑惑が取りざたされる著名人への直撃動画が話題になっている。中でも世間の注目度が高いものは、多くの番組で放送され、多額の収益を生むそうだが、そこに“待った”をかけたのが、音事協だという。
音事協のもくろみは一体……。
出版不況といわれる昨今。紙の出版物の売り上げが総じて下降傾向にある中、近年、週刊誌をはじめとした各誌は、ネットを使ったニュースサイトやECサイトの運営に注力している。週刊誌によっては、取材で得た映像や音声をテレビの情報番組などに売るビジネスも生まれており、本誌でも既報の通り、「週刊新潮」(新潮社)が報じた豊田真由子前衆院議員の「このハゲ~!」という暴言音声は、版元に大きな利益をもたらせた。
これまでも、テレビの情報番組などでは、芸能ネタを中心に週刊誌やスポーツ紙の記事を紹介するケースは多々あったが……。民放テレビ局情報番組の元スタッフは次のように語る。
「『週刊文春』の場合、記事の使用料が5万円、それにオプションとして直撃取材の際、記者に撮影させたサイト用の動画をプラス10万円で番組に提供しています。以前は記事が3万円で、動画が5万円だったので、だいぶ値上がりしましたね」
1回5万円、10万円といえども、芸能人の不倫騒動など世間の注目を集めた動画や音声に関しては、キー局、地方局を含めて複数の番組で繰り返し使用されることも多く、中には記事と合わせて1000万円を超える利益をもたらしたものもあるという。
「1回の使用で10万円ですが、豊田議員の音声ほどではないまでも、話題になるスクープ動画だと帯で5~6番組くらいで使用し、3日間は引っ張ることにもなる。結果、全体で150万円くらいの売り上げというところでしょう」(同)
不況にあえぐ週刊誌にとって動画ビジネスは、もはや時代の必然ともいえようが、それに“待った”をかけようとしているのが芸能界だという。前出のテレビ局元スタッフは明かす。
「実は、最近になって音事協が民放各テレビ局に対し、週刊誌に使用料を払って動画を流す際、二次使用料を請求する意向を水面下で示したんです。まだ正式決定ではありませんが、業界内ではかなり話題になっていますよ」
『音事協』
日本音楽事業者協会のこと。1963年に音楽事業を営む事業者が、事業向上を目的として設立。その後、80年に法人化。現在の会長はホリプロ代表取締役の堀義貴氏。
日本の芸能事務所で構成される大手業界団体「一般社団法人 日本音楽事業者協会」は、かねてから芸能人の肖像権やパブリシティ権の保全・啓蒙を訴えている。これにより、各テレビ局に対して、加盟社に所属する芸能人の過去の映像を使用する際、場合によっては二次利用料を徴収【1】してきた歴史がある。
さりとて、情報番組やニュース番組などで使用されているタレントらによる記者会見やイベント出演の映像やキャプチャ、会見写真などに関しては、二次使用料は原則的には発生しないようだ。
別のテレビ局スタッフの話。
「そうした映像に関しては、そもそもテレビ局が映像に映っている芸能人に出演ギャラを払っているわけではないし、報道という観点もある。ちなみに、仮に二次使用料が発生しなくても、テレビ局は音事協加盟社の芸能人の映像を再利用する場合は、その都度、使用を申請し、許可を得る必要があります。これには芸能人の肖像権やパブリシティ権の管理という意味合いのほか、別の理由もあるようです。芸能人によっては、昔の古い映像を使われると、『今と顔が変わってる! 整形だ!!』などとSNSなどで炎上するケースもありますから(笑)」
なんともややこしい、芸能界とテレビ界を取り巻く二次使用の現実だが、「週刊誌動画の二次使用料請求に関しては、昨年秋口から動きがありました。いくらなんでも無茶な要求だとは思いますが、肖像権を管理する音事協からしてみれば、タレントの顔や名前で商売しているからその分け前をよこせ、という話なのでしょう」(同)という。
いささか横暴に見えるが、これについて法的根拠はあるのだろうか?肖像権やパブリシティ権に詳しい弁護士法人ALG & Associatesの児玉政己弁護士は「音事協が二次使用料として請求できる性質のものではなく、また、音事協が行おうとしている二次使用料の徴収業務は、法的な根拠がないと考えられます」とし、次のように解説する。
「二次使用料を請求するためには、請求するコンテンツにおいて請求者に何かしらの権利が必要となります。まず、『このハゲ~!』など、誰かの『発言』(音声)そのものには、創作的な表現性が欠如しており、著作権の発生が想定されず、芸能人の外見を利用するものでもないため、肖像権ないしパブリシティ権の侵害も肯定し難いと考えられます」
では、動画に関してはどうだろうか? 児玉弁護士は続ける。
「音声のみの場合とは異なり、『映像』(動画)については、映像作品の制作者に著作権が生じ得ます。今回のケースにおいては、映像制作者は取材を行った週刊誌(あるいは委託された記者)であって、音事協ないし所属プロダクションには著作権が発生し得ません。そのため、当該映像の著作権の二次使用料というものを、音事協として請求することはできないものと考えられます」
次に芸能人ら、人物の容姿に商業利用価値がある場合における『パブリシティ権』を見てみたい。
「パブリシティ権に基づく請求を行いたい場合、判例上、著名人が持つ顧客誘引力に着目し、専ら当該顧客吸引力を用いる目的で商品やサービスに肖像等を用いるという状況が必要になります。私企業が発刊する週刊誌とはいえ、あくまで公共の関心事を世論に伝えるという目的が主であり、著名人の肖像などが持つ顧客誘引力を利用して自らの商品やサービスを販促することを専らの目的としているものではないため、パブリシティ権を侵害しているとは認められないと考えられます。
仮に、パブリシティ権の侵害に当たるとしても、二次使用料として請求できるといった性質のものではありません。
さらに、『人格権』としての肖像権の侵害も考えられますが、人格権については、商業的価値を有するものとして、所属する芸能プロダクションが管理できる性質の権利ではありません。そのため、所属プロダクションからの委託を受けているに過ぎない音事協は、二次使用料などとして請求できるものではないと考えられます」(同)
タレントや所属芸能プロがこれらの権利について、ある種の契約を音事協と交わした場合は別にして、個人が訴えに出た場合、都度、司法による判断を待つこともあるようだ。だが、音事協そのものには二次使用料を請求できる権利はない、というのが現状である。とはいえ、芸能界、あるいは音事協とベッタリのテレビ局が、彼らの要求を拒むことはできるのだろうか? でも、(ほぼ確定みたいですが)まだ“水面下”の話で、決定ではないんですけどね。
(編集部)
【1】二次利用料を徴収
音事協に加盟する芸能プロ、もしくはタレントがテレビ局と出演契約を交わした過去のテレビ番組(ドラマや歌番組、バラエティ番組、トーク番組など)の映像を、新たに番組で再使用する場合、映像の長さに応じて二次利用料を音事協に支払う料金。徴収後、音事協は所属芸能事務所にこれを分配する。使用時間が長くなるほど、あるいはタレントのネームバリューが高ければ高くなるほど高額になる傾向がある。また同じ芸能人の映像でも、バラエティ番組、トーク番組に比べると、ドラマや歌番組など“実演”している映像は、より高額になるという。