なぜ女芸人は「ブス」をネタにするのか? 女性が行使するラベリング・コミュニケーション

――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。

『キングオブコント2017』公式サイトより。

 お笑い業界2017年の個人的なイットガールは、ブルゾンちえみでも、平野ノラでもなく、アンゴラ村長であった。アンゴラ村長とは、『キングオブコント2017』(TBS系)で、ほぼ無名ながら準優勝して一躍脚光を浴びた男女コンビ「にゃんこスター」のボケ担当だ。問答無用の美人でも誰もが認めるブスでもない23歳。女性経験の少ない男性にそこはかとなく受けそうな、化粧っけのない童顔黒髪おかっぱ。早稲田大学文学部卒業、ネット系の会社に在職する2足のわらじ芸人。相方のスーパー3助(34歳)と交際していることを、『キングオブコント』後に発表した。

 そのアンゴラ村長を、ひと目見てすごくモヤッとした自分がいた。「モヤッと」は決して「萌え」ではなく、「ムズムズして居心地が悪い」という意味だが、その理由がうまく言語化できないまま、今度は別の番組での彼女の発言に引っかかった。

「顔とか生まれとか、変えられないものを蔑むっていうのは古い」

 この発言はネット上でそれなりに「ポリティカル・コレクトネス的には正論」と話題になったが、過去に「ブス売り」でのし上がってきた他の女芸人たちから、その武器を根こそぎ取り上げてしまってもいいものか?……などといらぬ心配をするのは決まって――「女芸人、結婚するとつまんなくなる問題」を意地悪く設定するのと同じく――大方は男性である。「結婚するとつまんなくなる問題」とは、残念な容姿や非モテの自虐を芸風にしていた女芸人が、結婚すなわち異性から選ばれたという実績によって「ブスゆえに不幸」ロジックが破綻し、芸風に説得力がなくなる現象のこと。

 しかし当の女芸人は、そのような属性変化を男ほどは問題視していないらしい。女性はライフステージやTPO次第で「キャラ変」することに、男よりずっと抵抗が少ないからだ。

 その証拠に、多くの女芸人が「結婚して“ブス枠”から外れても、別の枠でやればいい」と割り切っている。既婚・出産を公にしている森三中の大島美幸や村上知子、クワバタオハラのくわばたりえなどは、若手時代ほど「残念な容姿」をいじられなくなったが、結婚生活や育児の話をトークに織り交ぜるママタレ枠に指定席を見出している。

 女は男よりも環境の変化に対する順応性が高い。男は結婚しようが子どもができようが、独身時代と同じように趣味で引きこもれる個室の書斎を欲しがり、世帯年収からすれば至極適正な額の小遣い制にすらグチグチ文句を言うが、女性はそれと対照的に、結婚した瞬間に経済観念が堅実化し、子どもができれば「女」から「母」に細胞レベルで作り変わって夫たちを困惑させる。

 しかし、それも当然。男性脳は「システム化」に秀でており、女性脳は「共感」に秀でている――という医学的見解がその根拠だ。男性は、ある価値観や生活様式をOSのインストールのごとくシステム化するのは得意だが、一旦構築したシステムを変えるのはとてつもないストレスを伴う。一方の女性は、社会の要請によって自分が属することになった集団の空気を高い共感力によって瞬時に読み、その場にフィットした自分にその都度「なる」ことができる。TPOによってOSを次々載せ替えていけるのだ。

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