“性的対象”から“自ら性を売りもの”にする時代へ――マドンナが概念を覆した!? 米音楽業界セックスシンボル学

性的魅力をまき散らし、熱い視線を集める“セックスシンボル”と呼ばれる女性たち。日本では“売り文句”になりにくい要素だが、米国では時代と共に様式を変えながらも、ショウビズの世界で成功するための要因として重宝されている。そんな米国の音楽業界におけるセックスシンボルの変遷とは――。

(絵/藤本康生)

「あたしのことを面白い人とかセックスシンボルではなくて、ひとりのアーティストとして見てくれているのは、うれしいな」――そんなコメントが目に入ったので、これはいったい、どこぞのセックスシンボルが放った言葉なんだろうと思ったら、なんとアメリカの女性ラッパー、カーディ・Bによるものだった。彼女が今年発表したシングル「Bodak Yellow」は、今年の9月末に全米ビルボード・チャートでテイラー・スウィフト「Look What You Made Me Do」を首位から蹴落としている。その成功を祝し、現在の夫でラッパーでもあるオフセットと「セックスしまくったわ!」と、すかさず言いふらしたことも記憶に新しいが、アメリカの音楽事情に詳しいライターの押野素子氏は、今もっともアメリカでセックスシンボル然としているアーティストとして彼女の名前を挙げる。

「カーディは元ストリッパーという経歴があり、キャラが立ちまくりのアーティストです。(女性ラッパーという土俵では)つい最近までニッキー・ミナージュがその座にいましたが、彼女同様、おそらくカーディも胸も尻も入れてる(人工豊胸・豊尻)でしょうけど、とにかくカーディはセクシャリティを前面に出した、いま一番勢いのあるアーティストですね」

 ちなみに今から1年前、彼女が何をしていたかといえば、『Love & Hip Hop』なるリアリティ番組に出演し、プロデビューを目指す女性ラッパーたちと派手なバトルを繰り広げていた。「言った者勝ち!」「自画自賛こそ信条!」とする押しが強く、負けず嫌いなラップ女子なら、ほかの誰がどう考えようと、相手を打ち負かすためには、自分のセクシーな性的魅力を最大限にアピールすることも当然だ――という話になる。

そもそもセックスシンボルとは何か

 セックスシンボルの概念は1950年代に誕生したといわれ、主に性的魅力を放つ著名人に対して、用いられる言葉である。だが、「私はセックスシンボルだ」ということにして、果たして、現実でまかり通るのだろうか? 受け手の趣味嗜好問題もあれば、時代背景や社会情勢によっても変化は起きるだろう。

 例えば、「世界を代表するセックスシンボル」として、マリリン・モンローが歴史的にもっとも有名とされている。しかし、彼女のセックスシンボル然とした活動をリアルタイムで観ることができたのは、現在70~80歳の人たち。筆者をはじめ、世間一般的に知られる彼女は、「1951年、映画女優として20世紀フォックスと契約を結んだ直後、過去のヌード写真が、かの『プレイボーイ』誌創刊号の表紙を飾り、契約破棄の原因となった。しかし、それがきっかけでセックスシンボルという称号がモンローに与えられ、そのコピーやイメージの再生産が、継続されてきただけにすぎない」――。そんな感覚のもと、長い年月が流れている。

 しかし、その凝り固まったセックスシンボル像をアップデートしたのが、今をときめくデヴィッド・フィンチャー監督が、84年に撮影したマドンナ「Material Girl」のミュージックビデオだ。豊かなプラチナブロンドの髪をゴージャスに魅せていたマドンナは、観る者にマリリン(から派生したイメージ)を喚起させるビジュアルにこだわり、それはデビュー・アルバム『Burning Up』(83年)のジャケット写真からも見て取れるし、セックスアピールも濃厚だった。そんな彼女が「Material Girl」のMVで、モンローに成り変わってみせたのだ。そこで(アップデートされつつ)再現されているのは、モンローの主演映画『紳士は金髪がお好き』(53年)で、彼女が「Diamonds Are A Girl's Best Friend」を歌う場面。もちろん、それを知らなくても“マドンナの曲”として観ることもできるし、仮にモンローへの成り変わりに気づいたなら、観た者は自然とモンローとマドンナの比較――例えば「モンローを真似ようなんて、格が違いすぎる」といった類のもの――を始めたことだろう。だが、比較したときに生まれる“ズレ”こそが、マドンナ側が望んだものだったのではないだろうか。

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