【磯部涼/川崎】川崎論、あるいは対岸のリアリティ

日本有数の工業都市・川崎はさまざまな顔を持っている。ギラつく繁華街、多文化コミュニティ、ラップ・シーン――。俊鋭の音楽ライター・磯部涼が、その地の知られざる風景をレポートし、ひいては現代ニッポンのダークサイドとその中の光を描出するルポルタージュ。

川崎駅近くのタワーマンションから見下ろした川崎サウスサイドのランドスケープ。

 あたし達の住んでいる街には
 河が流れていて
 それはもう河口にほど近く
 広くゆっくりよどみ、臭い

 河原のある地上げされたままの場所には
 セイダカアワダチソウが
 おいしげっていて
 よくネコの死骸が転がっていたりする

“River's Edge(川縁)”という長閑な題名を付けられたそのコミック・ブックは、しかし、以上のような不穏なモノローグで始まる。今からもう22年も前になる94年6月に単行本が発売された岡崎京子の『リバーズ・エッジ』(宝島社)は、彼女の代表作のひとつで、同作について後に劇作家・宮沢章夫は「95年を予兆している」(15年刊行のオリジナル復刻版解説より)と評した。95年というのは、つまり、戦後50年にあたる年であり、安定成長期に確立された日本の安全神話が、阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件によって崩壊した年であり、しばしば、日本社会の、悪い意味での転換点として位置づけられてきた年だ。実際、『リバーズ・エッジ』の基調となっているのも、一種の嫌な予感のようなムードである。

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2024.11.23 UP DATE

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