ディストピア・川崎サウスサイド

――日本有数の工業都市・川崎に渦巻くセックス、ドラッグ、ラップ・ミュージック――。俊鋭の音楽ライター・磯部涼が、その地の知られざる風景をレポートし、ひいては現代ニッポンのダークサイドとその中の光を描出するルポルタージュ。

 平和な光景だった。日曜の午後、川沿いの土手を、ベビーカーを押す若い夫婦や雑種犬を連れた老人、トレーニングウェアを着たジョガーが通り過ぎていく。下方にあるだだっ広い河川敷では、川べりに親子が座って釣りをしている。しかし、その平和な光景は、まるで陰惨な事件現場を覆い隠すブルーシートのように思えてならなかった。

2015年2月、中学1年生の少年が殺害され、遺体を遺棄された川崎区の多摩川河川敷。

 2015年2月20日早朝、川崎区・京急大師線港町駅に程近い多摩川沿いの土手を散歩中の地元住民が、河川敷に転がる全裸の死体を発見した。被害者は13歳の少年Aで、体中にあざがあり、首をナイフで切られていたという。また、周辺からは結束バンドが見つかった。そして1週間後、17~18歳の少年3人が逮捕される。容疑者らは日頃から少年Aを子分のように扱い、犯行当日は態度が悪いと言って暴行。極寒の中、裸で泳がせた末に殺害したとみられる。この事件は近年まれに見る凶悪な少年犯罪だったこともあり、連日、報道された。現場の河川敷にできた花束の山の映像を覚えている人も多いだろう。

 その場所は、検索エンジンに「川崎 殺人 場所」と打ち込めば簡単に知ることができる。当時、事件はネットでも盛んに取り上げられ、その結果、今でもオンラインにはデマを含めたさまざまな情報が転がっているのだ。グーグルマップが示す最短ルートに従って近場のスーパーに車を止め、工場の間を通って土手へ向かっていく。あたりは日曜の昼間だというのに静まり返っており、不気味なくらいだが、土手に出ると様子は一変。現場は地元住民には馴染みの散歩コースだったのだ。

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