特別対談【部落解放同盟末端幹部×ユーロスペース支配人】『破戒』は名作でも低評価? タブーなき“差別映画”闘論史

被差別部落、在日コリアン、アイヌ民族、ハンセン病……。この国に内在するさまざまな差別は、昔から日本映画の題材になってきた。一方で近年は、こうしたテーマを全面に押し出した作品は減少している。そんな差別を取り扱った映画の変遷と、今も見るべき名作を部落解放同盟末端支部幹部とアート系ミニシアター支配人が語る。

2人の監督によって映像化された『橋のない川』。

 部落解放同盟きっての映画通としても知られ、別名義での著作を持つ南健司氏。1980年代からミニシアターブームの一翼を担ってきたユーロスペースの支配人で、アート系の映画から社会派作品まで造詣の深い北條誠人氏。今回、「差別と映画」をテーマにした対談では、明治時代の奈良県にある被差別部落を舞台に、理不尽な差別を克服する青年の姿を描いた名作『橋のない川』(92年)の話から始まった。

 北條さんがおっしゃる『橋のない川』は92年の東陽一監督作品ですが、ぼくがまず挙げたいのは今井正監督作品の『橋のない川』。小学生か中学の頃に出会った作品です。

北條 今井正監督の作品は第1部(69年)と第2部(70年)があるんですよね。

 第1部が公開されたときには、ぼくの所属する団体が全面協力し、自主上映会にもバス数台で駆け付けました。だけど映画を見た当事者たちは、いくつかの批判と不満を指摘したんです。

北條 それは第1部の方で?

 ええ。ぼくが不満に感じたのは、部落出身の主人公・誠太郎が、初恋の女性が手を握ってきた後の顛末。成長し教員になったその女性が、「手が冷たくて、蛇の手を握ったように感じた」と差別的なことを言って、それを知った誠太郎がショックを受けるシーンがあるんです。住井すゑさんの原作にもある描写ですが、映画では、ただ酷いセリフが言われただけで流れていって、受けた側の感情表現がなかった。あともうひとつは、伊藤雄之助っていう個性派の俳優さんの場面。

北條 はいはい、顔の長い雄之助さん。

 あの人が酔っぱらって列車の中で傍若無人な振る舞いをするんですが、それも「部落民はこういう身勝手なことをやるんだ」と見えるような描き方だった。だから、「そういうシーンは2部では改善してほしい」と中央本部などが申し入れたんです。しかし、改善されなかった。結果、製作者側ともめて、解放同盟は「あの映画は差別映画だ」と抗議・糾弾したんです。ただ問題の背景には、今井正監督のバックには共産党がいて、その頃の解放同盟は共産党系と社会党系に分裂する騒ぎもあったということ。だから映画『橋のない川・第2部』の自主上映の現場で、抗議・糾弾する解放同盟と共産党が衝突する事態がたびたびあった。

北條 上映会の会場で、ですか?

 当時はそういうことが多くありましたね。「『橋のない川』第2部上映阻止運動」とか、「八鹿高校差別事件」とか、とにかく「差別はない」と断言する共産党と、「差別は絶対に許さない」とする解放同盟が衝突していました。

北條 それはすごい話ですね。でもあの映画は、住井さんの原作があり、部落解放というシリアスなテーマが描かれてる。名著を名匠が映画化しているのに衝突する……。我々からすると違和感を覚えます。住井さんは何かこの衝突について談話は出さなかったのでしょうか?

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