白人が黒人に劣等感を抱く!?『ゲット・アウト』らが挑む人種差別描写&表現の最前線

現在公開中の映画『ゲット・アウト』を鑑賞された読者も多いだろう。同作がトレイラーやポスターなどに記された“ホラー映画”だけで済まされないことは、物語の端々から読み取れたはずだ。本稿では『ゲット・アウト』を軸に、近年のアメリカ映画における人種差別の描写を考察していきたい。

黒人の彼氏が白人の彼女の自宅に招かれる直前、シレッと人種について尋ねる『ゲット・アウト』の冒頭シーン。まさか、この後にあんなことが……。(『ゲット・アウト』トレイラーより)

「いくらなんでも、それはないだろう」――少し前までそう思っていたことが、この1~2年で頻繁に起きている。と同時に、それは今までも起きていたものが可視化されただけだ、という意見もある。ただ、テロや銃の乱射事件は、世界各地で場所を変えて定期的に発生しているようだし、アメリカでは警察による無抵抗で丸腰の黒人に対する暴力(殺害)事件も、相変わらず多すぎる。さらに“白人至上主義者”も、「これまでどこに隠れていたのか!?」と、言いたくなるほど表に出てきている。

 世論の形成において、客観的な事実よりも、感情や個人的信条へのアピールが影響力を持つ状況(ポスト・トゥルース)が加速している昨今。フェイク・ニュースは世界中に平気でばら撒かれている。そんな状況の真っただ中で、アメリカ大統領となったドナルド・トランプは、自分に批判的なものや不都合なものは、「すべてフェイク・ニュースだ」と切り捨てる。こうした一面的な価値観だけがごり押しされ、歴史の“修正”にもつながっていく。

 こうなってくると、ますます権力(支配力)を持った白人主流派に圧迫された非主流派や社会的弱者には、フィクションの世界を怖がる以前に、目の前の現実社会のほうが、よほどホラーとなってしまう。警察による非主流派への不当な暴力事件が絶えぬ状況で、去る8月に米シャーロッツビルでは大規模な白人至上主義集会が開かれ、死亡者が出たほどだ。

 そんなさなか、こうした恐怖の根源をむき出しにした作品が、先ごろ日本でも公開された映画『ゲット・アウト』【1】だ。主人公で黒人の写真家クリスが、白人の恋人であるローズの実家へ家族を訪ねる――ストーリー自体は、アメリカの日常によくあるエピソードだ。

 彼女は郊外の“典型的な”リベラルの家で生まれ育ち、父親は「もしオバマに3期目があったら、もちろん彼に投票するよ」と、黒人であるクリスに執拗にアピールするような人である。もう少し踏み込んでいえば、主役とヒロインが“異人種カップル”だから……と誰もが想像しがちな、世間で目にするような露骨な人種差別行為や描写も一切出てこない――というよりも、劇中では巧みに回避されている。本誌連載「ファンキー・ホモ・サピエンス」でもおなじみのライター、丸屋九兵衛氏は、次のように語る。

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