女性ファッション誌はお察しの通り空前の「インスタ映え」ブーム。しかし、これがなんだかちょっとおサムい。女性カルチャーに明るいライター・稲田豊史氏が「サムさ」の原因を突き止める!
インスタコバンザメ【1】
「インスタ映え」するアイテム紹介
なんでもかんでも「インスタ映え」と言ったもん勝ち。ここではインスタ映えするオシャレな壁に合うスカートを紹介。スカートよりもオシャ壁を探すほうが大変そう。(「JJ」2017年10月号/光文社)
ここ2~3年、あまたの女性ファッション誌がインスタグラム(以下、インスタ)にひざまずいている。ページを開けば、そこかしこから目に入る「インスタ映え」の文字。F1層の承認欲求回収装置であるインスタの爆発的流行を前提とした、インスタあっての誌面構成が激増中だ。
そんな「インスタコバンザメ」記事は、大きく3つに分類される。
一つ目は、とりあえずどんな記事にも「インスタ映えする○○」を、小見出しやキャッチに入れ込むケースだ【1】。「インスタジェニック」「SNSジェニック」「絶対バズる△△」なども同様のバリエーション。まるで「お前らの人生の最終目標って、結局インスタ映えでしょ?」と決めつけるかのような雑誌サイドの煽りは、むしろ迷いがなくて潔い。
インスタコバンザメ【2】
インスタグラマー担ぎ上げ
フォロワー数16K(1万6000人)以上の人気インスタグラマーを撮り下ろした企画。職業はみな「プロトラベラー」「モデルの卵」など、ふわっとしている。インスタほど加工できないせいか、顔が違う人もチラホラ。(「CanCam」2017年2月号/小学館)
二つ目は、インフルエンサー担ぎ上げ記事【2】。インスタグラマーの中でも特にフォロワーが多く影響力のある“選ばれし者”を「インフルエンサー」と呼ぶが、彼女たちのコーデやアイテム紹介、休日の過ごし方追跡などで誌面を埋めるパターンだ。インフルエンサーの職業はモデル、ショップ店員、セレブ(という名の裕福な家の遊び好き女子大生)などさまざま。サイゾー読者的には、彼女たちのポートレート横に誇らしげに添えられた「フォロワー数○○人!」が、『ドラゴンボール』の戦闘力や『ONE PIECE』の賞金額ランキングを彷彿とさせて、なかなか楽しめる。
三つ目は、インスタ映えする撮影テクニック集だ【3】。構図の取り方や小物の置き方、配色バランスのアイデア集、小顔効果のあるポージングなど、カメラ教則本も真っ青の専門性は年々エスカレート。読者年齢層が上めな雑誌ほど、エイジングを経たご尊顔の接写を避ける傾向にあるのはご愛嬌。帽子で顔の大半を隠したり、視線を外したり、引きで撮って(金にものを言わせた)コートの上質感を前面に出したり……小賢しくも涙ぐましい小技情報が胸を熱くする。
「素材の鮮度が落ちたら料理法でカバー」は真実なり。
インスタコバンザメ【3】
オシャレな撮影テクニック講座
「A4サイズの透明ケース」「ウォータービーズ」など、用意するのが面倒なオシャレ写真用グッズを紹介。さらに、ここではオシャ壁ではなくオシャ階段を探すことが求められている。(「JELLY」2017年11月号/ぶんか社)
ただ、よくよく考えると、それなりに歴史も伝統も矜持もあるはずの紙のファッション誌が、メディア的には完全に競合他社であるはずの新参SNSをここまで太鼓持ちするのは、若干の違和感もある。なぜなら、いくら誌面でインスタを推したところで、インスタ利用者の行動は「投稿写真についたコメントでアイテムを特定→ZOZOTOWNか後日リアル店舗で購入」が定番であり、そこに紙のファッション誌の入り込む余地はないからだ。