――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地
『石破茂の「日本創生」』(河出書房新社)
[今月のゲスト]
石破 茂[衆議院議員]
安倍政権の支持率が危険水域とされる3割を割り込む中、自民党の重鎮・石破茂衆議院議員に注目が集まっている。ポスト安倍候補でありながらも、時に反安倍政権の立場を取るその姿勢に、現在、多くの報道機関から取材が殺到している。そんな彼は「これまで」の、そして「これから」の自民党をどう見ているのだろうか?
神保 今回は第850回というキリのいい回にふさわしいゲストをお迎えしました。自民党の石破茂衆議院議員です。
宮台 政治家の言葉の重さ、あるいは軽さが話題になっています。ただの言い逃れの言葉、あるいは世界的に展開しているポストトゥルース的な言葉。そして機を見るや、勝ち馬に乗って言説の方向性を変えるマスメディア――ここでも同じく「言葉」が問われていますが、今回は与野党通じて、言葉の重みが最も感じられる政治家に来ていただきました。
神保 最近、メディアで石破さんの顔を見ない日がないという状況ですが、ご本人としてはいかがですか?
石破 世の中はこんなに変わるんだな、という感じです。人の興に乗ずるようなことは主義に合わないので、面白おかしい作りの番組はできるだけお断りしていますが、ずっと言っていたのに取り上げられず、今になって「さあ、もっと言え」と(笑)。まあ、世の中というのはこんなものでしょうね。
神保 石破さんとしては、安倍政権の支持率が下がっているときにアンチ安倍の代表格としてメディアに取り上げられるのは、必ずしもありがたくないということですね。
とはいえ、今回はあえて「石破政権」を展望してみたい。もし石破政権ができたら、それはどういうものになるのか? 安倍政権とはどう違うのか? などについて、うかがっていきたいと思います。
まず、ポスト安倍の有力候補として扱われることについては、ご自身は、どう受け止めていらっしゃるのですか?
石破 私が中高生の頃は佐藤栄作長期政権で、「三角大福中(三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫、中曽根康弘)」が全員総理になりました。中曽根長期政権のときは「安竹宮(安倍晋太郎、竹下登、宮澤喜一)」で、安倍さんは途中で病に倒れたけれど、竹下さんと宮澤さんは総理になられましたね。小泉長期政権のときは「麻垣康三(麻生太郎、谷垣禎一、福田康夫、安倍晋三)」。谷垣さんは今ご療養中ですが、自民党総裁にはなられた。政権をそれぞれのポストで支えるということと、次の政権のために準備する、ということが両立したんです。
そういう意味で、私ももう31年、国会議員として議席をいただき、大臣も複数回務め、党三役も2つ(幹事長、政務調査会長)を経験しています。それで「なんの準備もしておりません」なんてわけにはいかんでしょうね。
神保 総理・総裁を狙っている、ということでいいですか?
石破 うーん、「狙っている」は違うな。「なる状況になったら」という前提で、自分はこう考えている、ということは答えられます。
宮台 よくわかりました。つまり、「自分が総理大臣になったら、こういうことをやる政治家なんだ」で十分だということですね。
石破 総理大臣は、「なりたい」と言ってなれるものじゃないですからね。田中角栄先生から直接2回、言われたのですが、「大臣1回は、努力すればなれる。大臣2回は、もっと努力すればなれる。党の三役は、相当努力すればなれる。しかし内閣総理大臣は、努力だけでなれるものではない。天命というものがなければなれない」と。
宮台 「天命」というのはもともと中国の言葉で、王朝交代は太平天国の乱や義和団事件のような大衆騒乱で起こる、という意味が含まれます。つまり、民衆あるいは大衆の思いと天命というのは、ぼんやりと対応した概念なんです。そういう意味で言うと、石破さんは長く政治家をやっておられて、「首相になるチャンスがあったのに、なぜなれなかったんだろう」という思いを抱いている国民がそれなりにいる。それを考えると、天命という言葉は、今とても重要になっている気がします。
神保 自民党が政権に返り咲く直前の、2012年の自民党総裁選挙では、第一回目の投票で石破さんが地方票165、国会議員票34の計199票だったのに対し、安倍さんは地方票87、国会議員票54の計141票で、石破さんが安倍さんを圧倒していた。特に地方票ではダブルスコアに近いほどの大差で石破さんが勝っていた。ただ、候補者が多数いたので、第一回目の投票では誰も過半数に届かず、なぜか国会議員のみによる投票となった決選投票で、安倍さんが勝利し、その後、ほどなく首相の座に就いています。
宮台 地方票、要するに自民党員の投票は、この人が総理大臣になるのが「正しい」という判断です。ところが国会議員は――良い悪いは別として基本的に「損得」で動くから、残念なことに正しさよりも損得が優越した結果、石破さんは首相(自民党総裁)になれなかった。時代をよく表しており、これがまさに今の流れにつながっていると思います。